研究課題/領域番号 |
20K22307
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 俊介 京都大学, 理学研究科, 特定助教 (90880980)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 燻焼 / 数理モデリング / 力学系理論 / 数値解析 / 数値シミュレーション / 分岐解析 |
研究実績の概要 |
本申請研究は,多くの燃焼現象に観測される固体の円形燻焼を研究対象としている.現在までに固体燻焼モデルはいくつか提案され,数値シミュレーションによる再現が行われてきたが,方程式の複雑さや空間次元の高さから,数学解析は困難であった.したがって,未だ実用上有効な燻焼モデルは構築されておらず,時々刻々と変化する燻焼波面の挙動の背後に如何なる数学的構造が隠れているか,という核心的問いが残されている. 本研究の目的は,新たな数理モデルを構築し,力学系理論の枠組みで解の定性的性質を調べるとともに,数値解析・シミュレーションなど多角的視点から解析を遂行することである. 本年度は,紙の燻焼現象に対するモデリングの研究,数理モデルの解の挙動を調べるための数学解析および数値解析を中心に研究を遂行した.具体的には,ガス燃焼の数理モデルとして知られるKuramoto--Sivashinsky方程式とある時空スケールで同値となる界面方程式モデルにおいて,拡大する円周解からの摂動が満たすべき時間発展方程式を導出し,数値解析をおこなった.導出された方程式は非自励系の非線形偏微分方程式であるが,これを差分化して得られる離散化方程式の解の存在性,一意性,安定性,そして厳密解との2次の誤差評価を得ることができた.以上の成果は,現在英字論文として纏めており,投稿予定である. また,本研究課題を遂行していく中で,数理モデルに含まれるパラメータを空間に依存する形で組み込むことで,空間形状を考慮した問題を近似できることの示唆を得ることができた.新たな研究課題として,今後の研究計画に追加する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,紙の燻焼に焦点を当てた新たな数理モデルの構築を目標としていたが,現段階では達成されていないのが現状である.紙の固体密度をどのように組み込めばシンプルな数理モデルを構築できるかについて,燃焼の専門家との議論が尽くされていないことが一つの原因として挙げられる. 本年度は,上記困難の回避策として,ガス燃焼の数理モデルとして知られる Kuramoto--Sivashinsky 方程式に着目し,それとある時空スケールの下で同値となる界面方程式を扱うこととした.この界面方程式は,拡大する円周解を厳密解として含むが,この解からの摂動の時間発展方程式を導出すると,曲率の効果を含む非自励系の非線形偏微分方程式が得られる.この非自励系の非線形偏微分方程式に対して,数値解析的側面からの研究を遂行した結果,離散化方程式に対する解の存在,一意性,安定性,そして厳密解との2次の誤差評価を得ることができた. 本来の研究計画では,数理モデルの構築を初年度におこない,数値解析やシミュレーションは次年度におこなう計画であった.数理モデルの構築は現在進行しつつ,初年度のうちに数値解析的成果を得る段階に到達している.したがって,ほぼ計画通りに研究は進行していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究課題を継続するとともに,本来の研究計画通り,曲面上における界面方程式モデルの構築,ならびに数学解析,数値解析,数値シミュレーションを実施する. また,最近,数理モデルに含まれるパラメータに空間依存性を課すことで,空間形状を考慮した問題を近似できることが示唆されている.例えば,ダンボールなどのように凹凸のある固体燻焼を考察した場合などがそれにあたる.既に得られている数値解析的成果は,パラメータが空間に依存する形であっても同様に得ることができる.よって,燃焼の専門家たちと研究議論を行い,燃焼波面の再現に向けたパラメータ推定を,新たな研究課題として追加したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,今年度の助成金使用計画の大部分を,高性能のデスクトップパソコンの購入に充てていた.しかし,COVID-19の影響により,在宅勤務が主となったため,大型のデスクトップパソコンの購入や,研究議論のための出張などが見送られたことが,次年度使用額を生じた主な原因である. 次年度は,数値シミュレーションのための高性能パソコンやその備品関係を購入し,出張や講演謝金へ助成金の利用を図る.
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