研究課題/領域番号 |
20K22311
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡邊 圭市 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (30875365)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | ナビエ・ストークス方程式 / 自由境界問題 / 接触角 / 最大正則性 / 関数方程式論 |
研究実績の概要 |
接触角を 90 度に固定し,接触角を生成する非定常ナビエ・ストークス方程式の自由境界問題を考察した.ただし,流体の占める領域は,3次元有界領域であるとし,領域の境界には自由境界条件および滑り境界条件を課した.ここで,接触角が 90 度であるという境界条件から,方程式系のエネルギー汎関数は Lyapunov 汎関数となる.また,接触角を 90 度に固定することによって,よく知られた reflection argument を用いることができ,接触線付近の特異性を排除することができる.自由境界問題の適切性を調べる際,固定境界問題への変換を行うと方程式系は準線型放物型偏微分方程式系となる.ゆえに,線型化問題に対する最大正則性原理を示す必要があった.そこで,本年度は,線型化問題の最大 Lp-Lq 正則性原理を示した.特に,領域の境界および接触線への境界のトレースが存在するための必要十分条件を明らかにした.さらに線型化問題の最大 Lp-Lq 正則性原理の応用として,与えられた時刻 T > 0 に対して,方程式系の時間局所適切性を時間 Lp 空間 Lq 枠で明らかにした.一般に,流体の占める領域が滑らかでない場合,流体の速度場の(空間変数に関する)二階偏微分の可積分性が制限されることが知られているが,円柱のように,領域の側面の外向きの単位法線ベクトルと底面の外向き単位法線ベクトルが直交している場合は,領域の境界が滑らかであるときと同様に,流体の速度場の二階偏微分の可積分性が制限されないこともわかった.
また,関連する研究として,流体の占める領域が境界の滑らかな有界領域である場合のナビエ・ストークス方程式の自由境界問題について扱った.本年度は自由境界に表面張力が働く場合について考察し,流体の初期角速度が十分小さければ方程式系の軸対称な定常解が一意に存在しかつ滑らかであることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り,接触角を生成する非定常ナビエ・ストークス方程式の自由境界問題のエネルギー汎関数は Lyapunov 汎関数となるための接触角に対する境界条件を導出することができた.また,方程式系の時間局所適切性を得ることができた.本年度の研究を通じて,領域の境界および接触線への境界のトレースが存在するための必要十分条件を明らかすることができたので,非定常ナビエ・ストークス方程式の自由境界問題に限らず,側面の外向きの単位法線ベクトルと底面の外向き単位法線ベクトルが直交しているような領域における他の方程式系に対しても,最大 Lp-Lq 正則性原理を導出できることが期待される.
流体の占める領域が境界の滑らかな有界領域である場合のナビエ・ストークス方程式の自由境界問題については,これまでに数多くの研究がなされてきたが,非自明な定常解の安定性に関する結果は Solonnikov を筆頭とするロシア学派によるものしか知られていなかった.そこで本年度は,同教授のグループの結果を最大 Lp-Lq 正則性原理の観点から見直した.特に,自明な定常解(速度場が0かつ圧力が定数)の安定性を扱った柴田 (2018) の結果を拡張することができた.
|
今後の研究の推進方策 |
1. 接触角が 90 度という境界条件は,物理的観点からすると強すぎる仮定であるので,Ren-E の数理モデルを採用し,接触角が時間によって変化する場合についても接触角を生成する非定常ナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の適切性が得られるかを研究する.特に,Guo-Tice (プレプリント) の結果からは,接触角に対する条件が必要条件かどうかまでは明らかにされていないので,Fricke ら (2019) の論文を参考に,この問題の解決を試みる.必要に応じて,この論文の第2著者である Kohne 博士(ドイツ)と連絡を取る.
2. 流体の占める領域が境界の滑らかな有界領域である場合のナビエ・ストークス方程式の自由境界問題の軸対称な定常解の安定性が流体の初期角速度の大きさを制限しなくても得られることを明らかにする.
3. 新型コロナウィルスの感染拡大状況にも依存するが,無限扇状領域における Stokes 方程式の数学解析に詳しい Kohne 博士(ドイツ)を研究訪問する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により,海外渡航を見送ったため.次年度は,海外渡航およびオンラインによる国際研究集会の開催を計画しているので,それらに助成金を充てる.
|