本研究期間を通じての主な研究成果は,ハンドル体結び目の拡大Alexander不変量に係る多重共役カンドルの線形拡大における代数構造の解明,及び有向空間曲面の多重群ラックコサイクル不変量の構成と様々な対称性を持つ有向空間曲面の決定である. 前者について,ハンドル体結び目のReidemeister変形に由来した公理を持つ多重共役カンドルと呼ばれる代数の線形拡大に対応する写像の組 MCQ Alexander pair の構成法を確立した.本結果を用いて得られる MCQ Alexander pair を用いることで,ハンドル体結び目の拡大Alexander不変量の具体的な計算が可能となる.また,多重共役カンドルの線形拡大に由来するハンドル体結び目の不変量について, MCQ Alexander pair を用いれば本質的に十分であることを示した. 後者について,多重群ラックと呼ばれる代数の(コ)ホモロジー理論を構築し,有向空間曲面の多重群ラックコサイクル不変量を構成した.ここで空間曲面とは3次元球面に埋め込まれたコンパクト曲面のことであり,結び目やハンドル体結び目の一般化とみなすことができる.また,ラックコサイクルから多重群ラックコサイクルを新たに構成する手法を確立するとともに,有向空間曲面の補空間の基本群からの群表現を適切に制限することで,コサイクル不変量の精密化及び計算の効率化を行なった.最終年度には当不変量を用いることで,可逆性とカイラリティを組み合わせた全5通りの対称性を持つ有向空間曲面について,任意種数における具体例のリストアップを行なった.
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