研究課題/領域番号 |
20K22325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐々木 健人 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90883504)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 量子センシング / 磁気共鳴 / ダイヤモンド / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究ではダイヤモンド窒素空孔(NV)中心を量子センサとして用いた新原理の精密磁場イメージング手法を開発し、固体中のスピンの挙動を検出することを目的としている。本年度は、NV中心を利用した磁場・温度イメージング装置の立ち上げと検証を行った。 まず、顕微鏡装置とマイクロ波照射を設計・作製した。これらを用い、単結晶中やナノダイヤモンド中のNV中心集団の磁気共鳴信号を光学的に検出した。回折限界程度の光学分解能が得られることを確かめた。また、マイクロ波パルスやレーザーパルスを利用し、NV中心の量子コヒーレンスの観測に成功した。これらは高分解能な磁場イメージングや、マグノンの定量的な計測につながる。 磁場イメージングの検証として、電流により生じる磁場の空間分布を測定し、アンペールの法則と良く整合する結果を得た。また、NV中心の異方的な磁場応答を利用した磁場ベクトル計測法を開発・評価した。この手法は、従来法と比べて感度的に有利であり、磁場精度的にもダイヤモンド格子の歪による悪化が起こりにくいといった利点をもつ。現在、この手法を利用した論文が投稿中である。加えて、磁性体であるフロッピーディスクや磁性多層膜の漏れ磁場をイメージングすることにも成功している。 温度イメージングの検証としては、ナノダイヤモンドをヒーターで加熱した際の温度と共鳴周波数の変化を測定した。共鳴周波数と温度の対応関係は、先行研究と整合性のある値が得られた。また、現在、ヒーターの電力を周期的に振動させることで生じる温度波伝搬をロックイン測定する方法も開発中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、装置の立ち上げを行い、基本的な測定の動作確認が完了したため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、マグノンの研究の標準試料であるイットリウム鉄ガーネット (YIG) 薄膜を用いた検証を行う。まず、YIG薄膜のマイクロ波吸収スペクトルの磁場依存性からスピン波の励起を確認する。その上で、YIG薄膜上にナノダイヤモンドを散布し、マグノンの信号をNV中心の発光により検出する。 ここで得られるマグノン信号を詳しく調査するため、磁場方向の変更やイメージング測定を行う。具体的には、複数のマイクロ波源を利用し、マグノンが空間的に伝搬する様子をナノダイヤモンドによってイメージングを行う。ナノダイヤモンドは、磁場方向によらずセンシングが行える利点を持つ。マグノンの伝搬モードは、磁場方向と伝搬方向に対して異なる。ナノダイヤモンドを利用し、マグノンの伝搬や散乱に伴って現れる磁場ノイズを系統的に調査することを可能にする。 ナノダイヤモンドは小さい為、光学分解能では分解できないほど高い波数のマグノンや、磁場ノイズが検出できる。他の主なイメージング法は、検出可能な波数が光学分解能に縛られ、磁化の検出しか行えない。従来法では検出できないマグノン由来の信号を空間的にイメージングし、本手法の利点を示したい。 また、これはマグノンと温度の同時にイメージングする技術にもつながる。マグノンの伝搬は磁性体の温度勾配にも依存する。これを実装できれば、近年注目されているマグノンと熱の相互作用を定量的に調査するためのツールに発展する可能性を秘める。
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