研究実績の概要 |
本研究ではダイヤモンド窒素空孔(NV)中心を量子センサとして用いた新原理の精密磁場イメージング手法を開発し、固体中のスピンの挙動を検出することを目的としている。本年度は、ダイヤモンドナノ粒子(ナノダイヤモンド)の膜を利用して実際に(1)温度波や(2)スピン波の検出を行った。また、本研究の基盤技術として有用な(3)機械学習方法、NV中心の高精度な(4)量子制御や(5)読み出しの原理実証実験を行った。(1,3,4,5)の内容は学術論文にまとめられ投稿中であり、(5)は採択された。 (1)では、量子センサによるロックイン・サーモグラフィを開発し、物質に生じる温度波を可視化した。ガラスやテフロンなどの良く知られた材料を測定し、文献値と同じオーダーの熱拡散率を見積もることに成功した。(2)では、昨年度示した方策通り、量子センサを磁性体薄膜の上に密着させ、マグノン信号の検出に成功した。既存の報告で説明されていない周波数帯域の信号も検出されており、その原因について引き続き調査中である。(3)では、ナノダイヤモンドからの信号を機械学習することで磁場を正確に見積もる技術を開発した。本技術は、物性計測においても量子センサの測定精度を保証できるため実用的である。(4)では、単一NV中心による交流磁場計測をフロッケ工学として捉えてスピン挙動を調査し、その応答が200次以上のベッセル関数と高精度に一致することを観測した。本結果は、NV中心が交流磁場計測において極めて高い正確さを持つことを裏付ける。(5)では、NV中心の発光データを物理モデルに基づいて解析することでセンサの信号ノイズ比を向上する最適化手法を開発した。本手法は、量子センサを用いた物性計測の基盤技術として有用である。
|