研究課題
スピン波から隣接非磁性層に注入されるスピン流は、逆スピンホール効果を通じて、電流へと変換される。多くのスピンデバイスはスピン流を電気信号に変換して検出するため、スピン流-電流変換現象の制御は応用上重要なテーマである。光は偏光や波長の自由度をもち、これらを利用すればスピン波の伝播を制御できる。ところが、電気的に励起したスピン波を電気的に検出した報告は数多ある一方で、光誘起スピン波の電気的な検出に関する報告はほとんどない。そこで、本研究では、光パルスにより生じるスピン波を電気的に検出できる手法を確立する。その後、その手法を用いて、光パルスの強みを生かしたスピン流-電流変換現象の制御を実現する。今年度は光誘起スピン波を電気的に検出可能な実験系の構築を行った。コプレナー導波路のシグナル線に、磁気ガーネットGd3/2Yb1/2BiFe5O12上に作製したPt細線を配線した。Pt細線中に生じる電流はトランスインピーダンスアンプで電圧に変換・増幅し、オシロスコープで測定した。波長800 nm、パルス幅50 fsのレーザーを用いて、磁気ガーネット中にスピン波を励起した。その結果、磁場方向に応じて極性が逆転し、無磁場下で消失する電圧信号を観測できた。一方で、電圧信号には、円偏光依存性、直線偏光の方位角依存性は見られなかった。したがって、光パルスの吸収による温度上昇が磁気ガーネット中にスピン波を誘起し、その結果としてPt細線中に電流が誘起されたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
光誘起スピン波によるスピン流-電流変換現象が観測可能な実験系の構築に成功した。初年度の目標を達成したため、おおむね順調に計画が進んでいると思われる。
偏光自由度を利用して、スピン流-電流変換現象の制御を目指す。今後は、スピン波励起の偏光依存性が顕わになる波長を用いる。実験系の改良も同時に行い、時間分解能等を向上させる。また、スピン波の時間分解イメージング手法も併用して、Pt細線に生じる電流と細線下を伝播するスピン波との相関も調査する予定である。
実験系の改良に必要な部品の見極めに時間を要するため、次年度に繰り越した。繰り越した予算は今年度予算とともに光学部品と測定装置をまとめて購入するために使用予定である。
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