研究課題/領域番号 |
20K22328
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田財 里奈 名古屋大学, 理学研究科, 特任助教 (10880023)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | カゴメ系超伝導 / ボンド秩序 / 超伝導 / 多体効果 |
研究実績の概要 |
2021年度においては、当初の研究計画で予定していた通り、新規カゴメ超伝導体AV3Sb5の電荷秩序と超伝導の研究を行い、その微視的機構の理論を完成させた。2019年に発見されたカゴメ系AV3Sb5では、2×2の周期を持つ電荷秩序や超伝導相、時間反転対称性の破れた相など、様々な未解明秩序相が種々の実験によって報告されたが、そのメカニズムは未解明であった。 そこで本研究では、バナジウム原子のd軌道から成る2次元ハバード模型に基づき、高次の多体散乱プロセスであるバーテックス補正を考慮した電荷秩序の解析を行った。その結果、カゴメ系の強磁性揺らぎによるパラマグノン干渉機構が重要な役割を果たし、2×2のダビデ星形ボンド秩序を発現させるメカニズムを見出した。また、圧力依存性についての解析も行った。圧力をかけることでvan-Hove特異点が元の位置からずれていき、ブリュアンゾーンの内側に移動することが分かった。その結果、圧力印加による整合ー不整合ボンド秩序転移が起こる可能性を見出した。 更に、超伝導相のメカニズムを解明する為に、「ダビデ星形ボンド秩序の量子揺らぎ」を考慮した超伝導理論を構築した。その結果、「ボンド秩序の量子揺らぎが誘起するスピントリプレット・シングレット超伝導という新規超伝導機構」を見出した。また、ここでの超伝導形成において、ボンドの量子揺らぎがもつ非局所性が非常に重要であることを見出した。 以上の研究成果は、Science Advances誌より学術論文として出版された。また、日本物理学会やアメリカ物理学会(APS March meeting)、その他の研究会において発表を行った。以上のように、2021年度に予定していた研究を完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度の当初の達成目標である「新規カゴメ超伝導AV3Sb5における電荷秩序・ボンド秩序の理論」を完成させることができた為、「当初の計画以上に進行している」に該当すると考える。特に、従来の平均場理論では、長距離クーロン相互作用や電子格子相互作用の存在を仮定する必要があったが、本研究では平均場近似を超える多体効果を考慮することによって、電子間の短距離クーロン斥力によって、ボンド秩序の発現が自然に説明できることを初めて見出した。 また、これに続く超伝導相の解析では、従来のMigdal-Eliashberg理論では取り入れられなかった波数に依存するボンド秩序の量子揺らぎをペアリングの種として考慮した。その結果、ボンド秩序の揺らぎが媒介するトリプレットとシングレット超伝導という予想外の新規機構を見出す事に成功した。また、圧力下での第一原理計算から、圧力によってネスティング条件が変わり、ボンド秩序の波数が移動することを見出した。更に、この変化が、超伝導の転移温度の2段ピークを生み出すことまで見出す事ができた。 よって、今年度のカゴメ系の電荷秩序や超伝導相の研究は、当初の研究計画を超えて、 大幅に進行しており、来年度も引き続きこの研究を発展させ、カゴメ系の相図の新規物理機構の解明に尽力していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究を遂行する中で、新規カゴメ超伝導AV3Sb5の電荷秩序と超伝導相の微視的機構の構築に成功した。更に、本研究を遂行する上で、非局所的なボンド秩序の量子揺らぎが超伝導相に影響を与え、シングレット・トリプレット超伝導という興味深い相が発現することを見出した。そこで今後は、本研究のカゴメ系の理論を推し進め、最近実験で見つかったボンド秩序相の内部で発生する「時間反転対称性の破れ」の機構まで解明する予定である。申請者は、2021年度の研究成果として、フラストレート系での電荷ループ相の機構とその安定化条件を見出す事に既に成功した。この時の理論が、カゴメ系の時間反転対称性の破れの相に対しても適用できる可能性がでてきた。カゴメ系の相図の解明を通して、フラストレート系の相図の普遍的な機構を見出す。更に、電荷ループ秩序を引き起こすその他の物質である、銅酸化物高温超伝導やイリジウム系の電荷ループ相の解析wも行う予定である。実験家との綿密な連携によってこれを遂行していきたい。 また、ボンド秩序相などの非局所秩序相のマクロ熱力学的性質についても、今後の研究課題である。特に実験によって最近、非局所秩序相の熱力学関数の振る舞いが従来の理論では理解できないことが観測され、議論の的になっている。これらについても、本理論で解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、国外に渡航して国際学会への参加を予定していたが、コロナウイルスの蔓延によって渡航が中止となり、これによって余剰分が生じた。 今年度は、積極的に国際学会へ参加する予定である。
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