2019年に発見されたカゴメ超伝導体AV3Sb5では、多彩な量子相転移相が実験的に発見されているが、その相図の微視的機構は未解明問題であり、その理論の構築が急務である。そこで研究代表者は、微視的なハバード模型に基づき、電子系の多体効果を考慮して、カゴメ超伝導体の相図の解析をおこなった。特に本科研費の最終年度である2023年度には、ナノスケールの電荷ループ秩序の理論の研究をおこなった。特に本年度行われた、京大グループの磁気トルクの実験により、130Kという高温で磁気秩序を伴わない時間反転対称性の破れが観測され、この理論を構築することが急務となった。研究代表者らは、実験グループと協力して、この時間反転対称性の破れの起源の解析をおこなった。その結果、高温での1方向性(1Q)電荷ループ秩序の発生と、面内磁場が誘起する一次相転移の機構を提唱することができた。更に、電荷ループ秩序がもたらす輸送現象の研究までおこなった。これまでに、電場の2次に比例した電圧V(2ω)が面直磁場の向きによって符号を変えるという結果が、実験によって観測されているが、その微視的導出は不十分であった。代表者らは、電荷ループ秩序の秩序変数を考慮した非相反電気伝導度の解析を行うことで、面直磁場によって符号反転するV(2ω)の解析的な導出をおこなった。以上の研究の成果は、出版済み論文2編として発表し、現在さらに論文1編を執筆中である。
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