研究課題
本研究では、サブマイクロメートルオーダの微細構造を有する固体物質(ロッド集合体)とカーボンナノチューブ(CNT)などの背景媒質からなる混合系(構造性媒質として参照)に高強度レーザーを照射することで、特異な衝撃波構造(局在した高強度電場)の形成と、それによる高品質のイオンビーム生成が可能であるとの着想に基づき、この新粒子加速概念を実証するシミュレーションと理論モデルの構築、および、レーザー実験を想定した構造性媒質を作製することを目的とする。この目的のもと、令和2年度は以下の研究を推進した。(1)構造性媒質と高強度レーザーの相互作用に関するシミュレーション(課題①):相対論的電磁粒子コードEPIC3Dを用いて、高圧背景ガス中に配置されたロッド集合体に、10^20 W/cm^2領域の高強度レーザーを照射するシミュレーションを実施した。その結果、準1次元的衝撃波が形成され、これにより準単色高エネルギー背景ガスイオンが高フラックスで得られることを見いだした。(2)ロッド集合体の作製(課題②):本研究で提案するイオン加速手法を実現するためには、レーザーをロッドの側面方向(ロッド軸に平行な方向)から照射するため、高アスペクト比の円柱状ケイ素(ロッド)を作製する必要がある。本年度は、プラズマエッチング時の電圧を適切に調整することで、高アスペクト比のロッド集合体の作製に成功した。(3)レーザー照射実験の検討(課題③):作製したロッド集合体と高強度レーザーとの相互作用実験の実施に向けて、照射配位の検討、および、計測器(電子のエネルギースペクトル)の製作を行った。また、ロッド集合体にCNTを導入方法について検討し、CNT中に準1次元的衝撃波が形成されるための実験配位を見いだした。
2: おおむね順調に進展している
構造性媒質に高強度レーザーを照射することで、高品質のイオンビームが高フラックスで生成可能な準一元的衝撃波を形成することを目的に、令和2年度は、(1)サブマイクロメートルオーダのロッド集合体に高強度レーザーを照射するシミュレーション、(2)ターゲットの作製、および、(3)それを用いた高強度レーザーの照射実験に向けた検討を実施した。具体的には、(1)では、構造性媒質と高強度レーザーの相互作用に関するシミュレーションを実施した。その結果、背景ガス中に形成された準1次元的衝撃波により、準単色高エネルギー背景ガスイオンが得られることを確認した。また、衝撃波に伴う電場構造と強度のロッド径に対する依存性を調査し、背景ガスを効率的に加速するために最適なロッド径が存在することを見いだした。(2)では、プラズマエッチング時の電圧を調整することで、高アスペクト比のロッド集合体の作製に成功した。一方、ロッド間隔を広げた場合、従来の条件では高エスペクト比のロッド作製が難しいことが判明し、ロッドの間隔に応じて蒸着する金属の膜厚を変更する必要があることがわかった。(3)では、作製したロッド集合体と高強度レーザーとの相互作用実験の実施に向けて、照射配位の検討を行い、高強度レーザーをロッドの側面方向から高精度で照射する配位を見いだした。また、ロッド集合体にレーザーを照射することで生成するプラズマ状態を把握するため、生成が予想されるエネルギー領域の電子の計測が可能な測定器(ESM)を製作した。本年度は、上記(1)-(3)の研究を通じて、実験に最適なパラメータ領域(ロッド径)の決定とそのためのターゲット作製、照射実験に向けた検討を進めた。これらの知見を活かし、令和3年度では様々なロッド間隔・ロッド径に対して高精度のロッド集合体の作製手法の確立を目指すとともに、これにCNTを導入したレーザー照射実験を実施する。
令和2年度の成果に基づき、令和3年度は、構造性媒質と高強度レーザーとの相互作用実験に向けた検討、および、準一次元的衝撃波によるイオン加速に関する理論モデルの構築に関する研究を推進する。具体的には、(1)CNTを含む構造性媒質と高強度レーザーの相互作用に関するシミュレーションを実施し、準一次元的衝撃波の形成とそれによる高エネルギーイオン生成に関するCNTの条件(空間平均の質量密度)を同定する。その上で、(2)シミュレーションで見いだしたパラメータ領域に基づき、CNTを含むロッド集合体を作製する。具体的には、様々なロッド間隔・ロッド径に対して高アスペクト比のロッド集合体を作製することに加え、令和2年度までに確立させた、プラズマエッチング技術によるロッド集合体の作製手法を利用して、CNTをロッド状に作製することでCNTの空間平均の質量密度の調整を試みる。これらをマイクロメートルオーダで高精度に接合することで、準一次元的衝撃波の形成とそれによる衝撃波加速が可能な構造性ターゲットの作製を目指す。さらに、このターゲットを用いて、(3)高強度レーザー(京大化研T6、理研SACLA)との相互作用実験を実施する。これにより、衝撃波で加速された準単色イオンの生成を目指す。また、これらの研究を推進するには、実験の配位を模擬可能な大規模シミュレーションが必要である。また、実際の照射実験で観測されるX線等の解析も必要となる。そのため、制動放射過程・大規模並列化を含むコードの整備・開発を行う。
新型コロナやレーザー装置の臨時メンテナンス等の影響で、当初予定していたレーザー実験の一部が令和3年度に延期となった。これに伴い、実験に関わる経費(消耗部品費、ターゲット作製費、ターゲットフォルダーの発注費)についての差額が生じた。令和3年度は、これらの費用に充てる。また、ロッドターゲット作製にあたり、令和2年度の作業で条件出しが必要であることが判明したため、一部を条件出しの費用に充てる。
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