研究課題/領域番号 |
20K22329
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 隆太郎 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (70870476)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 粒子シミュレーション / ターゲット作製 / レーザー照射実験 |
研究実績の概要 |
本研究では、現在達成可能なレーザー集光強度で医療応用可能な高エネルギー化(200 MeV/u 強)と高品質化(準単色・高指向性・高粒子束)を同時に満たすイオンビームの実現とそれを可能にするターゲットを開拓するとともに、その学術基盤を構築することを目的としている。この当初目的のもと、粒子シミュレーション・ターゲット作製・レーザー照射実験を実施した。 ・シリコンロッド集合体(直径サブマイクロメートルオーダの2次元円柱状物質(ロッド)が格子状に配列した物質)と集光強度が10^18 W/cm^2を上回る高強度レーザーとの相互作用を模擬する2次元・3次元粒子シミュレーションを実施した。その結果、ロッド径を適切に選択することで、プラズマ中に生成する電磁場の強度やイオンのエネルギー、ロッドの膨張速度といったパラメータが制御可能であることを明らかにした。 ・半導体技術を利用して、上述のシリコンロッド集合体を精度よく安定して作製する手法を確立させた。また、ロッド集合体に炭素ナノチューブ(CNT)を導入することで、目的とするターゲットが得られると着想し、数10マイクロメートルの間隔でロッド集合体とCNTを向かい合わせて設置する手法を見いだした。 ・レーザー照射実験において、CNTはCCDカメラによる観測が困難であるため、レーザーの照射位置を厳密に決定することを目指し、ターゲットから正確な距離に鋭利なくさび型の構造物を設計・配置した。また、アライメント用のモニターとして、高性能のデジタルカメラ、および、従来のレンズに対して収差の少ない顕微鏡用対物レンズを導入し、無限遠光学系によるターゲットの観察(アライメント)手法を確立した。これらの検討を踏まえて、2022年度において、CNTに高強度レーザーを照射する実験を実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コロナ等の影響でレーザー照射実験の実施に制約がかかる状況であったため、主にシミュレーションとターゲット作製に注力した。具体的な進捗状況は以下の通りである。 (1)シミュレーションの実施:ロッドターゲットと高強度レーザーとの相互作用を模擬する2次元・3次元粒子シミュレーションを実施し、ターゲット内に形成される電磁場構造や加速されるイオンのエネルギーについての詳細を調べた。合わせて、3次元のロッドとレーザー場との相互作用を再現する大規模シミュレーションを実施するためのコードの整備を実施した。その結果、電磁場の強度やイオンの最大エネルギーがロッド径に応じて大きく変化することを見出し、ロッド径を適切に選択することでこれらが制御可能であることを明らかにした。 (2)ターゲットの作製:(1)のシミュレーション結果を踏まえて、半導体技術を用いてシリコンロッド集合体(直径がサブマイクロメートルで高さが数10マイクロメートルオーダの円柱状ケイ素が多数配列した物質)の作製を実施した。具体的には、プラズマエッチングのパラメータや蒸着させる金属の膜厚を工夫することで、目的に沿った高アスペクト比(ロッド高さ/ロッド径)のロッド集合体を安定して作製する手法を確立させた。 (3)レーザー照射実験:(2)で作製したターゲットを使用して、理研SACLAや京大化研T6レーザーを用いた照射実験を実施した。その結果、ロッド径に応じてロッドの膨張速度・電子温度・生成するイオンエネルギーの空間分布・x線スペクトルが変化することを確認した。これらの結果については、(1)の粒子シミュレーションと並行して解析中であり、シミュレーション結果とよく似た傾向を示すことが確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は今後、以下の3点を軸として継続・進展させていく予定である。 (1)実験環境を再現する粒子シミュレーションの実施:実際の照射実験においては、ケイ素のイオン化過程・衝突緩和過程を含む原子過程や、x線生成や輻射減衰過程などが含まれる。今後は、コードの整備を実施し、これらの物理過程を取り入れた粒子シミュレーションを行い、より実験環境に近い相互作用の再現・解析を目指す。 (2)ロッド集合体へのCNTの導入:本研究の当初目的である準1次元衝撃波によるイオン加速を実現するには、ロッド集合体の背景に高圧ガスを導入し、背景ガス中に衝撃波を形成する必要がある。この間の検討で、CNT(炭素ナノチューブ)へのレーザー照射により生成したアブレーションプラズマをロッド集合体に誘導することで目的のターゲットが実現できることを見いだしている。これを踏まえて、CNTとロッド集合体の照射配位を詳細に検討し、上記の状況を実現するターゲットの作製を目指す。 (3)CNTへのレーザー照射実験の実施:CNTは直径数ナノメートルのミクロな糸状物質が多数集合した繊維状のバルクであり、互いに平行に直線状の束となっている。したがって、方向性を持つ媒質であると考えることができ、レーザー照射により発生する高エネルギー電子の運動方向等の応答が照射方向により大きく異なると考えられる。これを踏まえ、CNTに対して2方向に電子スペクトルメータを設置した上で、CNTターゲットに対するレーザー照射実験を実施し、発生する電子エネルギーの角度分布を明らかにすることで、プラズマのアブレーションの方向を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、京大化研のT6レーザーを用いたCNT(炭素ナノチューブ)への照射実験を実施予定であり、実験遂行に必要な予算(レーザー運転に伴う電気代等の使用料、電子エネルギーやイオンエネルギー、干渉計測等の計測機器の導入等)として計上していた。一方で、レーザー照射に先立ち、レーザーの照射位置をマイクロメートル以下のオーダで正確に同定する作業(ビームアライメント)において、(a) CNTの高さ(500 マイクロメートル)に対してT6レーザーのレイリー長が20マイクロメートル程度と短いこと、(b) CNTが光を吸収するためビームモニターによりその存在が確認できないこと、(c) ターゲット中にエッジ等の適切な目印がないため焦点の同定が困難であること等の理由により、レーザー照射位置の決定が困難であったため、実際のレーザー照射には至らなかった。したがって本年度は、これらの問題を解決して次年度に向けたレーザー照射実験に向けた準備を実施した。次年度においては、差額の予算を活用して、高性能対物レンズとスペイシャルフィルターの導入を含むビームモニターの開発、電子スペクトルメータ(ESM)の製作とレーザー照射実験を実施予定である。
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