研究課題/領域番号 |
20K22332
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
山根 悠 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (80883511)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / セリウム化合物 / 近藤効果 / 熱膨張 |
研究実績の概要 |
希土類金属間化合物の熱膨張は,重い電子状態,量子臨界点近傍での非フェルミ液体的挙動や非従来型超伝導など,局在4f電子と伝導電子の混成によって発現する多彩な物性を明らかにしてきた。しかしながら,不純物近藤効果を示す物質の熱膨張は測定されておらず,その振る舞いは未解明のままである。本研究では,重い電子系直方晶CeCu6のCe希釈系の熱膨張を測定することにより,不純物近藤効果による熱膨張を明らかにすることを目的とする。 今年度は,まず,ストレインゲージを用いたアクティブダミー法による熱膨張測定装置を立ち上げ,重い電子状態を示すCeCu6の熱膨張を5 - 150 Kの温度範囲で測定した。見積もられた体積熱膨張係数の磁気成分は,50 Kで極大を示し,15 K以下では温度降下とともに急激に増大する。この結果は,既報の実験データをよく再現することを確認した。 上記の熱膨張測定装置を用いて,Ce希釈系La1-xCexCu6 (0.6 <= x < 1)の熱膨張を3つの結晶軸方向について5 - 150 Kの温度範囲で測定した。Ce濃度xを1から0.6まで減少させると,a軸方向の線熱膨張係数は150 Kから20 K の温度範囲で変化しないのに対し,b軸方向では60 K以下で,c軸方向では全温度範囲で減少した。各軸の線熱膨張係数から見積もったCeイオン1モルあたりの体積熱膨張係数の磁気成分は,xを1から0.6まで減少させるとわずかに減少傾向を示すが,これらの特徴的な振る舞いは保持される。これらの結果は,CeCu6における5 - 150 Kの体積熱膨張係数が重い電子状態よりもむしろ近藤効果に起因することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)当初の計画通り,ストレインゲージを用いたアクティブダミー法による熱膨張測定装置の立ち上げに成功した。ストレインゲージと固定抵抗から構成されるブリッジ回路には,抵抗値の温度変化が5 ppm/℃程度と小さい金属皮膜抵抗器を採用した。また,新たにDC精密電流源を導入することにより,熱膨張の高精度な測定を行うことができた。CeCu6の熱膨張の測定結果が既報の実験データを再現することから,本装置の測定精度を確かめた。 (2)Ce希釈系La1-xCexCu6 (0.6 <= x < 1)の線熱膨張を5 - 150 Kの温度範囲で測定した。当初は測定毎に異なるデータが得られていた。我々は,ストレインゲージを張り付ける際に用いる接着剤に含まれる気泡が原因だと考え,接着剤を入れたデシケータを減圧して気泡を除去した後,試料に塗布した。その結果,再現性のある実験データを得ることができた。得られた実験データから,CeCu6における5 - 150 Kの体積熱膨張係数が重い電子状態よりもむしろ近藤効果に起因することを指摘した。
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今後の研究の推進方策 |
Ce希釈系La1-xCexCu6 (0.6 <= x < 1)の0.05 - 5 Kの温度範囲における熱膨張を明らかにするため,以下の実験を行う。 (1)ストレインゲージのゲージ本体とゲージリードを接続する鉛フリーはんだの超伝導転移が原因で,現在のセッティングでは5 K 以下の熱膨張測定が困難である。そこで今後は,ゲージ本体とゲージリードをスポット溶接で接続することにより,はんだの影響を除去する。改良した熱膨張測定装置を用いて1.8 Kまでの熱膨張を測定する。 (2)さらに低温の熱膨張を測定するため,キャパシタンス式熱膨張測定セルを作製して3He-4He希釈冷凍機に設置する。CeCu6の熱膨張測定を行い,得られた結果を既報の実験データと比較することにより,セルの評価を行う。その後,La1-xCexCu6 (0.6 <= x < 1)の熱膨張を測定し,その振る舞いを明らかにする。
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