色素増感太陽電池(DSSC)において、光励起された色素分子から酸化チタン(TiO2)への電子注入は光電変換効率を決定する重要な過程の1つである。TiO2上における色素分子の配向や配列は電子注入効率に関与しており、これらの制御は電子注入効率の低下に起因する色素分子間の会合や電荷再結合を抑制する。本研究では、配向・配列制御のために、シランカップリング剤(SCAs)に着目した。SCAsをTiO2へ表面修飾後、SCAsに色素分子を化学結合させ、色素分子の配向・配列を制御することで、会合体形成や電荷再結合が抑制されると期待される。令和3年度では、令和2年度に実施した量子化学計算の結果を基に、有機色素-SCAsを用いたDSSCの作製と評価を実施し、SCAsが与える有機色素の配向およびDSSCのPCEへの影響を調査した。 SCAsは3-glycidyloxypropyltrime-thoxysilane (GPTMS)、有機色素はH-ダイマーおよびH-凝集種を形成することで知られるクレシルバイオレット(CV)を選定した。ここで、GPTMSとの結合によりCVの配向が制御されれば、CVのダイマー形成が抑制され、伴ってPCEが増大すると予想した。これを確認するために、全光線透過率スペクトルを測定した結果、TiO2表面上に物理吸着したCVではダイマー由来のブロードなスペクトルが観測された一方で、GPTMSを介してTiO2表面に結合したCV(CV-GPTMS/TiO2)では、ダイマーバンドが観測されなかった。この結果より、TiO2表面上に処理したGPTMSによりCVのダイマー形成が抑制されたと結論付けた。また、これら色素を含むDSSCのPCEを測定した結果、CV-GPTMS/TiO2の方が7倍高いPCE(0.002%→0.014%)を示すことが明らかとなった。
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