長半減期の放射性ヨウ素 (I-129、半減期1570万年) の地表環境中の濃度は、1950年代以降に世界各地で稼働を開始した原子力施設からの放出によって上昇している。その為、複雑な生物地球化学的循環システムでI-129がどのように移行しているのか、そのメカニズムを解明するために、I-129の移行挙動を支配する主要な物理化学的形態(溶存態、懸濁態)を特定する様々な研究が実施された。しかし従来は、各物理化学形態のI-129の定量が困難であった為に、測定が容易な短半減期の放射性ヨウ素(I-125)の環境試料への室内添加試験等が実施され、実際の環境試料中のI-129を分析した研究例は非常に限定的である。本研究では溶存態I-129と懸濁態I-129を含む地下水中のI-129を対象として、紫外線照射(有機物を分解; 全I-129画分)と、逐次濾過(溶存態I-129と懸濁態I-129に分離; 溶存態I-129画分と懸濁態I-129画分)を組み合わせたI-129スペシエーションの分析法の確立を試みた。 昨年度までの研究で、0.45μm (懸濁態I-129画分)と10 kDa(溶存態I-129画分)で逐次濾過をした地下水のAMSおよびICP-MSを実施し、各画分のI-129/I-127原子数比、I-127濃度、I-129濃度を決定した。更に、効果的に地下水試料中の有機物を分解する為に、低圧水銀ランプによる模擬水試料の紫外線照射試験を実施し、有機物分解の条件 (紫外線照射時間) を概ね決定した。 本年度は、市販の有機態ヨウ素試薬(溶存有機物を模擬)とイオン(I-とIO3-)を混合した模擬水試料で有機物分解の条件を決定することで分析法を確立した。更に本分解条件で地下水試料を処理した。AMSの測定結果を取得後は、確立した分析法によって地下水中I-129の主要な物理化学形態が明らかになる見込みである。
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