研究課題
ウラン系強磁性超伝導体の量子臨界現象解明のため、磁気熱量効果測定装置の準備を行った。測定に使用する再凝縮装置と希釈冷凍機の修理と動作確認を行った。測定に使用する温度計を作成し、希釈冷凍機を使用して、ゼロ磁場で10Kから50mKまでの温度計校正を終えることが出来た。本研究はウラン系強磁性超伝導の下地となる常伝導状態の性質解明を目的としている。そこで、磁化測定装置MPMSを用いて、ウラン系強磁性超伝導体UTe2の磁化測定を行い、この物質の常伝導状態のエントロピーの磁場変化を詳細に調べた。磁場がc軸の方向では磁場に対してエントロピーが減少する振る舞いが見られた。これは、通常の常磁性体に予想されるエントロピーの磁場変化である。b軸方向では、10K程度の温度において、磁場に対してエントロピーが上昇する振る舞いが観測された。これは、単純な常磁性体では説明できない。この磁場方向では、35Tでメタ磁性転移の発生がよく知られている。メタ磁性転移近傍では、臨界終点の影響からエントロピーが上昇する。我々の実験は7Tまでではあるが、そのメタ磁性転移によるエントロピーの上昇の影響を受けている可能性がある。一方、磁化容易軸で、メタ磁性転移の存在しないa軸方向でも、5K程度の温度において、5T以上の高磁場で、磁場によりエントロピーが上昇する振る舞いが見られた。これは、メタ磁性が存在しないa軸方向では説明が困難な性質であり、この物質の異常な超伝導の性質との関係性が考えられる。
3: やや遅れている
測定のためのヘリウム凝縮器は長年使用されておらず、申請者がその再起動を行った。その結果、凝縮器に詰まりがあり、動作しなかった。申請者の試行錯誤の結果、その詰まりを除去することが出来た。そして、こちらも長年使用されていなかった希釈冷凍機の運転を行ったが、リークのため動作しなかった。その修理を行ない、再度運転を行った結果、50mKの低温が維持できることを確認した。これらの不具合修正のため、研究にやや遅れが生じている。
現在、磁気熱量効果測定に使用する磁場中校正の準備中である。これを速やかに終え、UTe2の測定を行い、データ解析をする。得られたデータを解釈し、論文や会議などで発表する。また、磁化測定装置MPMSを用いたウラン系強磁性超伝導体UTe2のエントロピーに関する研究は、解釈に関して研究協力者と議論の後、会議と論文発表を行う。
研究に遅れが生じたため、物品費の計上が遅れた。また、コロナ禍の影響で、会議が全てオンラインとなり、旅費の使用が出来なかった。次年度に研究が進む見込みであるため、当該年度に購入する予定だった物品を次年度に購入する。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Physical Review Letters
巻: 125 ページ: 097203
10.1103/PhysRevLett.125.097203
Physical Review B
巻: 102 ページ: 104433
10.1103/PhysRevB.102.104433
巻: 101 ページ: 241102(R)
10.1103/PhysRevB.101.241102
Physical Review X
巻: 10 ページ: 011007
10.1103/PhysRevX.10.011007