研究課題/領域番号 |
20K22343
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岡野 元基 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (90880237)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | スピン流 / スピン渦度結合 / ディラック流体 / スピントロニクス / グラフェン |
研究実績の概要 |
近年、電子のスピン角運動量の流れであるスピン流を活用したスピントロニクスが注目さ れており、スピン流生成の物理がスピン軌道相互作用(SOI)に基づき理解されている。一方で最近、新たなスピン流生成機構として“巨視的な回転運動”と“電子スピン”との相互作用で あるスピン渦度結合が注目されている。本研究計画では巨視的な回転(渦)が現 れる舞台としてグラフェンに注目した。Dirac型の線形分散を持つグラフェンでは、電子-正孔プラズマ流体(Dirac流体)が電気伝導を担う。グラフェンはSOIの影響を無視できる事に加え、形状、ゲート電圧、磁場、温度を変化させることでDirac流体分布を制御できるため、 これらの性質を制御しつつスピン流生成効率を系統的に調査することを目指している。 本年度は主に、低温環境下で電気特性を測定するための測定系の構築し、高移動度のグラフェン素子の作製を行った。1.3Kから室温まで温度を制御できる冷凍機を立ち上げ、電気特性測定環境を構築した。スコッチテープ法を用いて高品質の六方晶窒化ホウ素を下地とするグラフェン膜を用意し、電子線描画装置、ドライエッチング装置、真空蒸着器を用いて電気測定用の素子を作製した。その際、グラフェンに1次元コンタクトをとるために、ドライエッチングと電極材料であるPdの成膜条件(蒸着角度・速度など)の条件出しを行なった。トップゲートとバックゲートに印加する電圧を変化させながら電気伝導度を測定することで、グラフェン中のキャリア濃度と印加される電界の大きさを独立して制御できていることを確認した。さらにスピン流検出用の強磁性体の磁気抵抗効果の温度依存性などのデータの取得も行なった。 以上により、グラフェンにおいて生成されたスピン流を検出するための測定手法・加工手法が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、グラフェンにおいてスピン渦度結合に由来して生成されるスピン流を観測し、系統的に調査することである。本年度は、六方晶窒化ホウ素を下地とした高移動度グラフェン素子の微細加工における条件出しを行い、冷凍機の立ち上げを行うことで、電気特性測定を実施できた。またスピン流の検出用の強磁性体の磁気抵抗効果の温度依存性などのデータも得ることができた。以上の結果から、グラフェンにおいて生成されたスピン流を検出するための土台を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を踏まえ、次年度はグラフェンに強磁性金属電極を接合した素子を作製し、スピン流の検出実験を行う。また、まずは従来のスピントロニクス実験の手法にならい、強磁性金属電極を2つ用いて非局所電圧測定を行うことで、グラフェンにおけるスピン輸送実験が行えることを確かめる。次に、スピン流の生成源が電流渦となるように素子形状を加工することで、スピン渦度結合に由来して生成されたスピン流の検出を行う。最後に、形状、ゲート電圧、磁場、温度を変化させ電子流体分布を制御しながら、 スピン流生成効率を系統的に調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度度はコロナウイルスの影響が長引いており、学会出張費などが不要になった。今年度の後半の情勢次第では学会などへの出張が必要になることも予想されるため、差額はその出張費として使用する予定である。
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