近年、電子のスピン角運動量の流れであるスピン流を活用したスピントロニクスが注目されており、スピン流生成の物理がスピン軌道相互作用(SOI)に基づき理解されている。一方で最近、新たなスピン流生成機構として“巨視的な回転運動”と“電子スピン”との相互作用であるスピン渦度結合が注目されている。 本研究計画では巨視的な回転(渦)が現れる舞台としてグラフェンに注目した。初年度は、六方晶窒化ホウ素を下地とした高移動度グラフェン素子の微細加工における条件出しを行い、冷凍機の立ち上げを行うことで、電気特性測定を実施できた。またスピン流の検出用の強磁性体の磁気抵抗効果の温度依存性などのデータも得ることができ、グラフェンにおいて生成されたスピン流を検出するための土台を整えた。 2年目となる本年度(4ヶ月間)は初年度に立ち上げた低温測定系の改良を行なった。初年度は低温下でのグラフェンの電気伝導特性を調べたが、スピン流の定量測定のためにはサンプルを物理的に回転させる必要がある。そこで、冷凍機内部のサンプルホルダーに回転機構を備え付けるための部品の設計を行なった。また、スピン流検出実験に用いるために、16端子のケーブルを接続するためのスイッチボックスおよび、サンプルホルダーを用意した。さらにグラフェン中に電流渦が発言する条件を決める非局所電圧測定のために、グラフェン膜をホールバー形状に加工した素子を作製した。さらにMathematicaを用い、作製した素子構造中の電子粘性流体分布のシミュレーションを行い、実験を行うパラメータの範囲を決定した。 またグラフェンにおける電子流体は、電子とホールとが共存したプラズマ流体という側面ももつ。この系は、高エネルギー物理学分野との共通点を持ち、極限環境下での物理を物質中で検証できる可能性がある。そのような他分野への発展も見据えた調査も実施した。
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