研究課題/領域番号 |
20K22347
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯山 悠太郎 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 助教 (10878177)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | 量子コンピュータ / 高エネルギー物理学 / 場の量子論 / イベントジェネレータ |
研究実績の概要 |
2021年度に、当初の研究計画にあった2つの段階のうちの第1段階が原理的に難しいことが明らかになり、第2段階(粒子散乱過程の素粒子物理学的記述からの直接シミュレーション)に専念することを決めた。2022年度は引き続きこの課題に取り組んだ。 素粒子物理学の基礎である場の量子論は多体系の量子力学の無限自由度極限として捉えることができる。通常、場の量子論を計算機(古典・量子問わず)上でシミュレートする場合は、無限の自由度(連続時空)を離散有限な格子で代表させる。この場合、量子コンピュータ上でのシミュレーションでは、格子点の数と計算に必要な量子ビットの数が比例し、特に高エネルギー過程の計算には莫大な数の量子ビットを使用することになる。しかし、高エネルギーの粒子散乱過程で摂動計算が可能な場合、摂動の各次数では有限個の粒子しか寄与しないということに着目すると、粒子ベースの離散化、つまり多体系の量子力学への還元というアプローチを考えることができる。このアプローチでは、必要な量子ビット数はシミュレーションに含める粒子の数に比例し、格子点の数(位置と運動量の双対関係より、粒子の運動量のダイナミックレンジに相当)については対数的にスケールする。 この粒子ベースでのシミュレーションの基礎を2021年度に本研究において独自に定式化していたが、その後2020年のBarataらの論文[1]でほぼ同じ内容が提唱されていたことがわかり、本研究のアプローチの有効性が裏付けられた。2022年度は、この論文で提示されたアルゴリズムの量子計算シミュレータ上での実装を行った。 [1] Barata et al. Physical Review. A 103 (4): 042410.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
粒子ベースの場の量子論の離散化は実装例のない手法であり、基礎部分から詳細に検討を進めていくことに想定以上の時間を要した。また、部局内の別プロジェクトで研究代表者の専門知識が必要となり、エフォートの実配分が変わってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、定式化された内容に沿って粒子ベースの散乱シミュレーションを実装していく。粒子ベースの場合、量子計算に必要なゲート数は格子ベースでの場の量子論シミュレーションに比較して少ないが、それでも現存の量子コンピュータ実機で精度良く計算を終わらせられる範囲にはならないので、古典コンピュータ上の量子計算シミュレータでの実装が主になる。その際、通常のワークステーション等で計算を行える量子ビット数(35程度)を超えた計算も必要になるため、東京大学の擁するスーパーコンピュータの利用を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
実装するシミュレーションを東京大学の共同利用スーパーコンピュータ上で実行することを計画しており、助成金はその使用料に充てる。2022年度は研究計画の遂行の遅れによりシミュレーションの実行まで至らなかったため、次年度使用額が発生した。
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