研究課題/領域番号 |
20K22351
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古野 達也 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30876363)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 元素合成 / トリプルアルファ反応 / アクティブ標的 / タイムプロジェクションチェンバー / フレキシブル基板 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、宇宙での高密度環境下における、炭素12原子核の合成速度を決定することである。そのために、炭素12と中性子ビームの非弾性散乱断面積を測定する。中性子により励起された炭素12から放出される、3つの低エネルギーアルファ粒子を検出し、非弾性散乱事象を同定する。アルファ粒子を検出には、申請者がこれまでに開発してきた飛跡検出器(MAIKo)を用いる。 これまでのMAIKoでは、XYの2方向のストリップ基板を用いて粒子の飛跡を決定していた。しかしこの方式だと、粒子がストリップに平行に入射すると、飛跡を再構築できない欠点を持つ。そこで本研究では、読み出し基板をXYの2方向から、互いに60度で交わるXUVの3方向ストリップに改善することで、どのような方向で粒子が入射しても、2つのストリップを用いて飛跡を構築できるように、MAIKoをアップグレードする。本プロジェクトの最終目標は、有感領域の大きさが30x30 cm2の3方向読み出し基板を開発することである。本研究課題では、有感領域の大きさが5.5 x 5.5 cm2のプロトタイプ基板を設計し、実際に製作を行った。低エネルギー粒子を検出するためには、ストリップの間隔が0.4 mm程度と非常に細かいことが要求される。本研究ではフレキシブル基板技術を新たに導入することで、高精細基板の開発を実現した。 2021年度は、製作したプロトタイプ基板を既存のMAIKo検出器に組み込み、動作確認を行った。検出器で十分なガス増幅率を達成するために、GEM増幅器を従来の1重から、3重に改良を行った。その結果、アルファ線源による信号を取得し、飛跡の再構築に成功した。また、試験の結果、信号配線が接近する箇所でクロストークの問題が発生することを突き止めた。今後はクロストーク問題を改善する新たな試作基板を製作し、試験を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であった、MAIKo検出器のための3方向読み出し基板のプロトタイプ製作は、2021年度内に完了した。製作したプロトタイプ基板をMAIKo検出器に組み込み、アルファ線源による信号を確認し、XUVの3つの飛跡画像の取得に成功した。また、XUVの3つの飛跡画像のうち、2つを組み合わせて3次元的な飛跡構築を行うことにも成功した。飛跡の3次元情報を解析することで、検出器の位置分解能を評価した。 性能評価の過程で信号配線が近接する箇所で信号のクロストークが発生していることを突き止めた。この問題は後述の対策を施すことによって、克服することができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で製作したプロトタイプ基板の動作試験において、信号のクロストークが発生することが判明した。これは、多層基板で異なる層の信号線同士が平行に配線されていること、またコスト削減の観点から、1つの読み出しコネクタに方向の異なるストリップを配線したことに起因する。 今後の研究で、多層基板の間にグラウンド層を挟むことで前者の問題を改善し、更に読み出しコネクタの数を増やし、信号線の密度を下げることで後者の問題を改善し、クロストークの問題を克服することを目指す。上記の改善を取り入れたプロトタイプ基板を新たに製作し、動作試験を実施する予定である。クロストークの問題が克服されていることが確認されれば、有感領域が30x30 cm2の実機製作に取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は2020年度中にプロトタイプ基板を製作・購入し、2021年度内に中性子ビームを用いてテスト実験を実施する計画であったが、フレキシブル基板技術を導入する計画変更があったため、基板開発の完了が2021年度に遅れてしまい、中性子ビームを用いたテスト実験を実施することが出来なかった。繰り越した予算を用いて、テスト実験を2022年度内に実施する予定である。
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