研究課題/領域番号 |
20K22352
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
赤池 陽水 早稲田大学, 理工学術院, 主任研究員(研究院准教授) (70726744)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | 銀河宇宙線 / 近傍加速源 / 銀河内伝播 / 暗黒物質 / 宇宙線電子 / 宇宙線原子核 / 国際宇宙ステーション |
研究実績の概要 |
我々が住む銀河系内を起源とする宇宙線(銀河宇宙線)は、超新星爆発に伴う衝撃波で加速され銀河系内を拡散的に伝播すると考えられている。1TeVを超える高エネルギーの宇宙線電子観測は、荷電粒子として初めて宇宙線の加速源を同定できる可能性が理論的に指摘されており、宇宙線の加速・伝播機構の詳細な理解につながるものと期待される。本研究では、国際宇宙ステーションに搭載した宇宙線観測機CALETによる観測データを基に10TeV領域に至る電子のエネルギースペクトルを導出し、その形状から地球近傍の加速源探索を目指している。 本年度は、CALETの5年以上の観測データから5TeVを超える電子の候補を約50例選別した。電子のエネルギースペクトルを正確に得るためには、データ解析において1000倍以上存在する陽子の除去が不可欠である。電子選別精度向上のため、個々のイベントに応じたシミュレーションデータを作成し、検出器中におけるシャワー形状の差異を基にした多変調解析を開発し、正確な電子選別の解析精度向上を図った。 また並行して主要な原子核である炭素と酸素の10GeV/nから2.2TeV/nにおけるエネルギースペクトルを導出し論文として発表した。これらのエネルギースペクトルは、陽子等の他の銀河宇宙線で既に見られている数100GeV/nにおけるスペクトルの硬化を示している一方、その変化量は陽子に比べて小さいものであった。スペクトル硬化は銀河宇宙線の標準モデルでは考えられないものであり、この成果は新たな理論モデルの構築に向けて重要な基礎データとなり得る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CALETは2015年10月の観測開始以来順調に観測を継続しており、電子の観測量は2018年にPRLで発表した論文の2.5倍以上に達している。研究期間内に本研究目的を達成するために必要な観測データの取得が予定通りに進行している。検出器は実際に観測する宇宙線データから常時モニタリングを行っており、出力応答の経年変化等に対応したエネルギー較正を実施している。観測開始以降に生じた不具合チャンネルは全7,388ch中1chのみで、観測当初と変わらない観測精度を維持している。運用に関してはJAXAと連携し、効率的かつ安定的な観測が実現している。 電子観測は、10GeVから4.8TeVのエネルギースペクトルを既にPRL(2017,2018)から発表しているが、より高統計のスペクトルが得られており、さらに5TeV以上の電子イベントの候補を約50例選別している。精確なエネルギースペクトルの導出のためには、バックグラウンドとなる陽子との精確な識別が不可欠であり、この解析精度向上のため、各観測イベントに対応するシミュレーションデータをそれぞれ百万例以上ずつ生成した。このシミュレーションデータを基に、イベント毎の多変量解析やLikelihood解析手法を開発し、電子の観測精度向上を図っている。 原子核観測は、炭素と酸素のエネルギースペクトルをPRLから論文として発表した。他の観測実験でも示唆されていた数100GeV/nにおけるエネルギースペクトルの硬化を確証した。さらに、より重い原子核である鉄のエネルギースペクトルを導出し、PRLから発表予定である。これらの成果は米伊との国際共同研究の中で各解析グループの解析結果の合致の確認など、連携したデータ解析を進めている。CALETの観測データや得られた成果については、JAXA/C-SODAからも一般に公開している。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究対象である銀河宇宙線の高エネルギー領域のエネルギースペクトルを精確に導出するためには、高統計のデータ量が不可欠であり長期間の観測が望まれる。CALETはこれまでの成果を基にJAXAにおける運用延長審査を通過し、2024年末まで観測延長予定である。検出器応答の経年変化量は年々減少しており、これまでの経過から今後も安定的に観測を継続し、高精度なデータを蓄積できるものと期待している。 電子観測においては、イベント毎の電子選別手法をさらに向上させ解析精度の向上を行い、更に系統誤差を仔細に見積もるとことで10TeV領域に至るエネルギースペクトルの導出を行う予定である。スペクトルの形状と異方性から近傍加速源の存在の有無を定量的に評価する。合わせてスペクトル中の微細な構造から暗黒物質の対消滅や崩壊に由来する電子成分の兆候を定量的に評価し、理論モデルに制限をつけることを目指す。 原子核観測は、これまでに発表した主要な原子核のエネルギースペクトルを更に高エネルギー領域へと延長するとともに、B/Cに代表される二次核/一次核比のデータ解析を進める。二次宇宙線の観測量も既にTeV領域に達しており、論文としてできる限り早期に発表する予定である。そしてこれら未発表の観測結果の発表に向けて、国際共同研究チームの連携によるデータ解析を促進するとともに、得られた成果は国内外の会議等で積極的に発信し、データ解析が完了次第、論文として順次発表する方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に起因し、国内外の研究会や会議、及び国際研究グループ間での会議がそれぞれ中止や延期、またはonline開催になったため、当初予定していた旅費に大きく差が生じた。これらの繰越予算は、国際的な感染状況にもよるが、延期分の会議の出張旅費として使用する他、既存の計算機システムに耐用年限を過ぎた計算機等があるため、新たな計算機等の購入に使用する予定である。
|