研究課題/領域番号 |
20K22355
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
米田 浩基 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (30881867)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | MeVガンマ線天文学 / コンプトンカメラ / 液体アルゴン検出器 / 深層学習 |
研究実績の概要 |
MeVガンマ線と呼ばれる、数百keVから数十MeVのエネルギー帯域は、現代宇宙物理学において未開拓波長領域であり、これまで観測された天体が約30天体程度に留まっている。この帯域は、重元素合成の直接的な証拠となる核ガンマ線を含むため、中性子星合体からの重力波観測もきっかけとなり、重要性が増してきている。我々は、大有効面積によるMeVガンマ線観測を実現する手段として、液体アルゴン タイムプロジェクションチェンバー (LArTPC)をコンプトンカメラとして用いるMeVガンマ線観測実験GRAMSを推進している。本研究では、気球実験実現に向けた、要素技術の開発を行っている。 2020年度においては、「コンプトン散乱イベントの解析アルゴリズムの開発」に重点を置いた研究を進めた。GRAMS実験で想定する1m程度の大きさの検出器では、入射したガンマ線は、検出器内で複数回コンプトン散乱を起こしたり(多重散乱イベント)、散乱を繰り返した後、検出器から抜け出てしまう事象(エスケープイベント)を引き起こすが、このような複雑なイベントに対するデータ処理の方法が確立されていなかった。特に、ガンマ線の撮像においては、同時に得られる各散乱点に対応する複数の信号から、その散乱順序を推定することや、入射エネルギーの推定を精度よく行うことが重要である。これらのイベントに付随する物理過程を取り入れた確率モデルを構築し、最尤法に基づく散乱順序決定アルゴリズムを開発した。また、並行して、深層学習をベースにした散乱順序アルゴリズムの開発も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コンプトン散乱イベントの解析アルゴリズムの研究を中心に進めた。大体積のガンマ線検出器では、検出器内で複数回コンプトン散乱を起こすような複雑なイベントが想定される。そのような多重コンプトン散乱イベントの解析アルゴリズムを構築することが、GRAMS実験における、ひとつ重要な課題である。我々は、まず、多重コンプトン散乱イベントに対して、付随する物理過程を取り入れた尤度モデルを構築し、最尤法に基づいた散乱順序決定アルゴリズムを開発した。過去にもいくつかの方法が提案されてきたが、今回、開発したアルゴリズムは、コンプトン散乱の非等方性など物理過程を取り入れていることと、エスケープイベントを区別し、抜け出たエネルギーの推定が行えるという2点において新規性がある。検出器シミュレーションをもとにアルゴリズムの評価を行い、GRAMSで想定される数MeVのガンマ線イベントに対し、正確なイベント再構成が行われていることを確認した。また、これと並行して、深層学習をベースにしたイベント再構成アルゴリズムの開発も進めており、将来的には、これらの異なる再構成アルゴリズムを組み合わせることで、より正確なイベント再構成が実現できると考えている。これらの結果は、現在、論文準備を進めている。 GRAMS実験に向けた試作機の開発においては、国内外の研究者によるコラボレーション会議をはじめとした定例会議を通じて、実験準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、イベント解析アルゴリズムの開発においては、続いて、画像再構成アルゴリズムの開発を進める。MLEM法をはじめとしたコンプトンカメラにおける画像再構成法をベースとして、GRAMSで想定されるバックグラウンド環境下に適した方法を開発していく。バックグラウンドの現実的な見積もりをGRAMS実験の共同研究者と協力しながら進め、より信頼性のある感度計算や角度分解能の評価に繋げていくことを目標とする。 また、GRAMS実験に向けた、液体アルゴンTPCの小型試作機の開発を進めていく。MPPCを用いた光検出器システムを構築し、液体アルゴン中でのガンマ線イベントに対する検出器応答の理解を進める。その結果やこれまで構築した解析アルゴリズムから、気球実験の検出器デザインや検出器シミュレーションへのフィードバックを与える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度から、解析アルゴリズムの開発と並行して、検出器試作機の開発を行う予定だったが、COVIT-19の影響を考慮して、初年度は、アルゴリズムの開発に専念し、次年度から検出器開発をメインに進めることとした。そのため、試作機開発に必要な物品購入も次年度に回ることになったため、初年度に想定していた予算の多くを翌年に繰り越す必要が生じた。
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