本研究は、抗酸化酵素スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性金属中心の起源と進化を明らかにすることを目的とする。最終年度は、昨年度から継続して、シアノバクテリアにおける鉄(Fe)とマンガン(Mn) を活性中心とする2種のSOD(FeSODおよびMnSOD)についての分子系統および祖先配列の解析を行った。また、FeとMn以外の金属元素を中心とするSOD(CuZnSODおよびNiSOD)についても、分子系統の解析を行った。本研究の結果からは、シアノバクテリアにおいてFe・MnSODは多くの系統群に分布しており、その起源は比較的古く、大酸化イベントやシアノバクテリアの共通祖先の分岐よりも前であることが示唆された。FeSODとMnSODの祖先は共通の祖先から誕生し、金属選択制の低い状態からそれぞれのSODが分岐したと考えられる。また、ニッケル(Ni)を活性中心とするNiSODについても、大酸化イベント前後には誕生していた可能性がある。NiSODは原生代後期以降に誕生した海洋性の系統群に特に多く分布しており、その多くはFeSODを保持していないことも明らかになった。銅・亜鉛を活性中心とするCuZnSODについては、解析に適した配列データセットが得られず、シアノバクテリアにおける獲得時期を特定できなかった。環境中、とりわけ海洋における溶存Fe・Mn濃度は大気酸素濃度の上昇に伴って、濃度が高い状態から現在の著しく低い状態に変化してきたと推定されることから、本研究の結果から、抗酸化酵素に用いられる活性中心金属が、環境中の金属イオン濃度に影響を受けて進化した可能性が示唆された。
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