台風の急速発達過程(Rapid intensification)は、カオス性の強い対流スケールの影響を大きく受けるマルチスケール相互作用を含む現象である。特に急速発達期の強度の数値予測は困難であり、予測不確実性がその他のタイミングに比べて増大するばかりでなく、大きなネガティヴバイアス(i.e.台風の急速発達を見逃す、あるいは強度を低く予測してしまう)傾向があることが指摘されている。 台風強度予測向上のためには、台風内部領域における観測の同化が効果的であることが知られている。しかし、熱帯低気圧のほとんどは陸上に根差した観測網の及ばない熱帯域の海上で生じ、発達するため、利用できる観測は非常に限られている。さらに、対流現象に伴って、細かい時空間スケールで激しく変動する内部構造について、継続的に捉えることは非常に困難である。よって、発達するかどうかわからず、航空機観測などの大規模な観測の実施が難しい初期の台風などにとって、静止軌道観測衛星であるひまわり8号やGOES-16は、ほとんど唯一の観測ソースとなる場合も少なくない。本研究では、大西洋にて発生し、GOES-16にてその急速発展を観測されたハリケーンについて、衛星観測同化実験を実施し、大気対流現象の発生メカニズムと、急速発達時の台風強度予測の向上可能性について検証した。 1. 台風の急速発達時における強度予測精度について、ピーク時で20%程度の誤差の減少が実現した。また、台風強度予測のネガティヴバイアス(台風発達の過小評価傾向)について、開発した衛星データ同化システムによって改善することを示した。 2. 台風の予測精度改善に貢献した要素を解析し、定量的に示した。衛星以外の観測が不足する熱帯海洋上において、特に衛星観測の予測精度改善への貢献度が高く、予測改善の90%以上が衛星観測データ同化によって実現されることを示した。
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