本研究では基線長補償システムの確立に必要な要素技術を明らかにし、システム確立への道筋を示した。
本研究の基線長補償システムの最大の特徴は、レーザー歪み計をセンサーとする点である。レーザー歪み計は、地震のような突発的な揺れ以外にも、波浪由来の揺れや、地球潮汐による非常にゆっくりとした地殻変動による外乱を、広帯域に低周波まで測定することができる。測定の雑音は、レーザーの周波数雑音による原理的な制限があるのみで、地殻変動測定においては十分小さく、本研究に適している。一方で、従来の基線長補償システムで用いられている地震計は、慣性センサーである。慣性センサーは、基線長変動と測定点での傾斜を原理的に区別できないという問題をもち、地球潮汐などの低周波帯域では感度をもたない。したがって、より長期間の基線長補償をするためには、理論的推測などの間接的な手法に頼らざるを得なかった。このような課題を直接解決するためのシステムの確立が本研究の目標である。そのために必要な研究内容として、従来型システムと本システムを実際の重力波望遠鏡KAGRAに組み込み、両者による重力波望遠鏡の安定性の違いを評価することを目的としていた。
本研究においては、従来型の基線長補償システムをKAGRAに組み込むインストール作業に多くの時間を要しており、レーザー歪み計との比較までは到達できなかった。だが、システムに必要な大枠の技術的要素はすでに構築したため、インストールとその後の調整に時間をさらに費やせば、本研究は達成されると期待される。
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