地球の内核は、鉄と少量の軽元素からなる合金である。積層欠陥エネルギーは面心立方(fcc)構造、六方最密充填(hcp)構造、複六方最密充填(dhcp)構造のエネルギー差に比例することが知られている。内核の軽元素候補のうち、積層欠陥エネルギーを低下させる可能性の高い水素との合金に関して、エネルギーと状態方程式の計算を行った。fcc FeHx合金は、fcc構造を取る鉄の格子間サイトに水素が侵入した構造をとる。水素が全ての格子間サイトを占めるFeH (x=1)の計算結果は、共同研究者による140万気圧までの高圧実験の結果と極めて良い一致を示すことが確認できた。この結果は、国際論文誌に発表されている。これを受けて、より地球の内核に近い条件である、水素が格子間サイトを部分的に占有するfcc FeHx (x < 1)の計算も行った。その結果、55万気圧より低い圧力下では、状態方程式に対して磁性の影響が存在する事がわかった。磁性によって体積が大きくなる効果が、これまでの実験結果の解釈を難しくしていた要因である可能性がある。一方で、地球の内核は330万気圧以上であるため、内核における鉄水素合金は非磁性と予想される。非磁性のhcp FeHxやdhcp FeHxに関しても状態方程式を計算したところ、fcc FeHxとほとんど変わらない結果が得られた。これらの状態方程式を地球の内核の地震波観測の文献値と比較したところ、鉄水素合金では内核を説明できないことが明らかになった。これは、地球の内核が、水素以外の軽元素を含んでいることを示唆している。
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