研究課題/領域番号 |
20K22367
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 尚志 名古屋大学, 高等研究院(宇宙), 特任助教 (10879787)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 太陽黒点 / 太陽フレア / 磁気嵐 / 宇宙天気 / オーロラ |
研究実績の概要 |
激甚宇宙天気現象は地上の送電網や通信網に影響を及ぼす新たな自然災害で、史上最大級のものは現代社会に破局的な影響をもたらす可能性が指摘されている。一方、このような激甚宇宙天気現象の規模を評価する定量的指標の時間幅は過去60年程度で、歴史的な観測事例から現代観測事例をはるかに上回る現象の存在が指摘されてきた。本研究ではこの問題を解決するため、過去の激甚宇宙天気現象の定量的評価を地磁気とオーロラの歴史的観測の解析によって行い、その検討を過去180年ほどに延伸することで、このような激甚現象の事例研究を行った。 2020年度の本研究を通し、特に1938年1月、1941年3月、1946年3月の激甚宇宙天気現象時の磁気嵐との規模をDst相等値で-300~-550 nT程度と推定し、その各々に際してオーロラオーバルが磁気緯度にして35°~45°程度まで拡大したことを明らかにした。また、これらの現象の際の太陽面の様子やフレアの発生も同時代の太陽観測や地磁気観測から明らかにした。加えて1859年9月の史上最大規模の激甚宇宙天気現象時に南米や南太平洋で観測されたオーロラ記録の検討を検討し、当時のオーロラオーバルの広がりをより赤道側に改訂した。加えて、1956年2月の巨大太陽フレアや774年のスーパーフレアの規模推定を行うことができた。このことから、既に激甚宇宙天気現象の研究に際し、アナログ記録を用いて過去に検討を延伸することの実現可能性は十全に示されたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当該課題の研究は、やや遅れを余儀無くされた面と当初以上の進展を見せた面の両面がある。本年度は世界的なコロナウイルスの感染拡大に伴い、国内外各地の文書館や観測所が物理的に閉鎖し、例外的な事例を除き、かなりの期間に渡ってオリジナルの観測記録へのアクセスが遮断された。また、同様の理由により国内外での出張が大きく制約され、国内外問わず共同研究の進展は大きく阻害された。にも関わらず、本研究は一定以上の成果を出し得たと考えて良い。既に本研究では、1850-1870年代、及びに1930-1950年代の激甚宇宙天気現象8件について7報の国際共著査読論文を結実した他、このような激甚宇宙天気現象時の現代社会に対する影響についての論文1件、さらにはマウンダー極小期の宇宙天気現象についての事例研究の論文1件に発展している。このような成果は現状の悪疫流行による影響にも関わらず、当初計画以上の進展を見せているとも見做し得るものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、コロナワクチン接種に伴い状況の改善しつつある欧米の文書館・観測所からのデータ蒐集の推進を急務として上げるべきであろう。これも踏まえた上で、過去2世紀分の目ぼしい宇宙天気についてより多くの事例研究を積み重ねていくことが重要になると考えられる。既にアナログ記録や歴史的観測を用いての宇宙的研究の実現可能性が十分以上に実証された今、今年度の目標はどれだけの事例研究を手堅く積み上げられるか、それらを通しどのような研究を派生し得るかを模索することが課題になるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの蔓延に伴い、海外文書館が長期間にわたって閉鎖し、同時代の観測記録へのアクセスが大幅に制約されたため。2021年現在、英国や米国ではコロナワクチン接種が進み、文書館も徐々に再会しつつあるので、前年度の研究を通して既にリストアップ済みの関連文献を網羅的に蒐集するとともに、研究成果の論文化、その際の英文校閲、論文掲載料に当該予算を充当する予定である。
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