本研究では、地震により形成された断層面の擦り傷「条線」の特性に着目し、断層の破壊伝播方向を古地震学的観測から推定することが可能か検証した。 まず動的破壊モデルを用いて、すべての断層メカニズムを包含した破壊伝播方向と断層条線の湾曲の一般理論を構築した。これまで世界で起きた、断層条線の記録がある内陸大地震において、実際に波形データから推定された破壊伝播方向、震源と湾曲した断層条線が観測された場所の記録を調べることにより、構築した一般理論との比較・検証を行った。その結果、過去の大地震で記録された条線のほとんど全てにおいて、破壊伝播方向と断層条線の湾曲方向に関係性があることが明らかになった。具体例として、複数の詳細な条線記録が残っている2011年に福島県で起きたM6.6の地震にに対して、それらの条線の軌跡を動的破壊モデルを用いて詳細に再現した。 また、条線の特性が複雑な断層形状によりどのような影響を受けるのか理解するため、簡略化された平面でない断層を取り入れた動的破壊モデルや形状が粗い断層を含むモデルを構築し、数値解析を行った。その結果、局所的な断層形状の影響により、条線の湾曲方向が周囲に比べ逆向きになるという過去の記録と整合的な結果が得られた。また、パラメータの異なるモデル計算を数多く実行し、条線の湾曲の特性と断層形状の関係やその物理的要因を明らかにした。 本研究の結果により、地震時に断層面上で記録される条線の湾曲の向きと断層の破壊伝播方向との間に関係性があり、条線の観察から古地震の破壊伝播方向を推定できる可能性が示された。これらの研究結果を国内・国際学会で発表し、論文2編を国際誌で出版した。
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