研究課題
令和2年度は、4つのメソシデライト(NWA1878、NWA2924、ALH77219、A-881154)隕石中に含まれるシリカ鉱物の観察およびシリカ相の同定を行った。4つの隕石薄片において、まず走査型電子顕微鏡により全体の反射電子像を取得し、シリカ鉱物が存在する場所を特定した。次に、国立極地研究所に設置してある顕微ラマン分光計を用いて、観察したシリカ鉱物の相を特定した。その結果、メソシデライトの中で比較的速く冷却されたと報告されているNWA1878隕石では、高温から比較的速い冷却速度を経験したことを示唆するクリストバライトと石英の集合体が見つかった。400℃以下で、これらが示す冷却速度よりも遅い冷却速度を経験していた場合には、クリストバライトの部分が単斜晶系トリディマイトに相転移している必要がある。そのため、NWA1878隕石に存在していたクリストバライトと石英の集合体は、先行研究と整合的な結果を示していることが明らかとなった。NWA1878以外のメソシデライトは、いずれもFe-Niメタルは遅い冷却速度を示唆していると報告されている。それらのメソシデライトには単斜晶系トリディマイトが含まれており、これも先行研究が示す冷却速度と整合的な結果となった。NWA2924の単斜晶系トリディマイトは、クリストバライトが高温型から低温型に相転移する際に見られる"fish-scale"と呼ばれる組織を保持しており、高温で急冷を経験したのち400℃以下で徐冷に転じたことを示唆していた。以上のように、令和2年度はメソシデライトの石質部分にもユークライト隕石と同様にシリカ鉱物の多様性が存在することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で分析に赴けない日があったものの、予定していた半数のメソシデライト隕石中のシリカ鉱物を精査することができた。特に、メソシデライトに含まれるシリカ鉱物にも多様性が見られることを明らかにすることができたため、概ね順調に進んでいると言える。
本研究では、シリカ鉱物の多様性とFe-Niメタルが示す冷却速度とを比較することで、シリカ鉱物の鉱物組み合わせおよび形態から冷却速度を推定することを目標としている。令和3年度では、予定していた残り半数のメソシデライト隕石中のシリカ鉱物を分析し、Fe-Niメタルを用いた冷却速度が見積もられていなかったNWA1878の冷却速度を自分自身で分析を行い、推定を目指す。加熱実験は、実験器具消耗品を購入したので、東京大学総合研究博物館にて実験を行う予定である。メソシデライトに含まれるFe-Niメタルが示す冷却速度は、エッチング分析を行うことで定量的に見積もる予定である。現在、エッチング分析を行う準備として、鉄隕石を用いた練習を行っている。また、シリカ鉱物はメソシデライトだけでなく鉄隕石の包有物にも含まれていることがわかってきた。鉄隕石もメソシデライトと同様にFe-Niメタルによって低温の冷却速度が推定されている。そのため、本研究では令和3年度から、メソシデライトだけでなく鉄隕石中のシリカ鉱物も合わせて分析を行うことにした。本研究の初期成果として令和3年度中にNWA1878中のシリカ鉱物についての論文を投稿し、国際隕石学会および日本鉱物科学会に参加し成果報告の発表を行いたいと考えている。
新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた学会がオンライン開催となったため、出張に行けなかったため、次年度使用額が生じた。令和3年度では、新たに鉄隕石を分析することとなったため、今回生じた「次年度使用額」は鉄隕石購入費(消耗品)として使用する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)
Earth and Planetary Science Letters
巻: 549 ページ: 116497~116497
10.1016/j.epsl.2020.116497