研究実績の概要 |
2020年度は、矮新星の降着円盤の多波長観測と数値シミュレーションに従事した。 まず、すでに出版した論文Kimura et al. (2020, PASJ, 72, 94)の続きとして、傾いた円盤を持つIW And型矮新星KIC 9406652のorbital light curvesのモデリングを行い、論文にまとめ、現在投稿中である。 また、VSNET team, AAVSOに可視光観測を呼びかけ、X線望遠鏡NICER, NuSTAR, SwiftでのToO観測を提案し、矮新星SS Cygの可視光・X線同時観測をおおよそ半年間に渡り行った。得られたデータを解析し、論文にまとめ、現在投稿中である。SS Cygは多波長域で明るく、よく調べられてきたが、2021年から静穏時の光度が多波長域で上昇したまま低振幅のアウトバーストを頻繁に繰り返すという、100年に1度の異常な現象を示している。私たちは、多波長データ解析からこの現象の原因を探った。SS Cygの今回の異常な現象は、矮新星のアウトバーストのメカニズムとして最も広く受け入れられている円盤不安定モデル(伴星からの質量輸送率が一定のもの)を用いても未だ説明できないIW And型矮新星の光度変動とも関連があると考えられるため、この現象のメカニズムを特定することは、矮新星の多様なアウトバーストを説明する統一モデルの構築のために重要である。 さらに、申請時から購入を予定していたMac Proを購入し、数値シミュレーションを素早く進められる環境を整えた。現在、SS Cygの2021年の異常な状態を説明するモデル、さらに、IW And型矮新星、Z Cam型矮新星の光度変動についての新しいモデルを構築すべく、円盤不安定の数値シミュレーションを行っている。このように、本研究の特徴は、一つの天体現象を観測と理論の両面から理解することである。
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