研究課題/領域番号 |
20K22376
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野津 翔太 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (40874649)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 原始惑星系円盤 / スノーライン / 星・惑星形成 / 原始星 / アストロケミストリー / 太陽系外惑星 / ALMA / 彗星 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、原始星段階から原始惑星系円盤 (以下、"円盤") までの化学構造計算と系外惑星大気の化学構造計算等を通じ、最新の観測結果による裏付けも踏まえた現実的な惑星形成理論を構築する事を目的としている。以下、2021年度の研究実績概要を述べる。
若く質量降着期である原始星段階から円盤散逸期までの物理構造と化学構造の時間進化を同時に扱うモデルを構築する事を目指している。本年度はダスト進化や円盤内詳細温度構造等に着目した研究を行った。先行研究 (Ohno & Ueda 2021) により、円盤内ではダスト進化 (成長・破壊・落下) に伴いH2Oスノーライン付近にダストが濃集する事で、スノーライン以遠に影構造 (低温領域) が形成される事が示唆されている。そこで申請者らはこの様な影構造を持つ円盤において詳細な化学反応ネットワーク計算を実行し、各分子種のスノーライン位置や組成分布、元素組成比が受ける影響等を調べた。計算結果をもとに、影領域ではダスト表面反応によりH2COやCH3OH等の有機分子の形成が促進される事等を議論した上で、円盤内で形成される惑星大気の組成や、彗星・小惑星の組成への影響も議論した。特に惑星大気に関しては、窒素-酸素組成比(N/O比)が円盤影領域で著しく増加する事から、N/O比が惑星形成環境 (影領域での形成か否か) のトレーサーとして使用できる可能性等を詳細に議論した。本研究内容をまとめた論文は、査読付き国際学術誌に投稿済みである。(現在査読中)
更に並行して、原始星天体および円盤のスノーライン位置や分子組成分布の同定を目指した分子輝線観測の観測提案(ALMA)や将来観測検討(GREX-PLUS, ngVLA, LST等)も各波長の望遠鏡に対して進めた。また電波・赤外線観測分野それぞれの将来計画検討会において招待講演も行い、研究・検討成果を紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は円盤のダスト進化 (成長・破壊・落下)・中心星の光度変化・X線&UV放射・宇宙線電離率・光蒸発等による影響も順次考慮した上で、原始星段階から円盤散逸期までの物理構造と化学構造の時間進化を同時に扱うモデルの構築を目指している。
本年度はダスト進化や円盤内詳細温度構造等に着目し、H2Oスノーライン以遠に影構造を持つ円盤において詳細な化学反応ネットワーク計算を行い、各分子のスノーライン位置や組成分布、元素組成比が受ける影響等を調べ、成果を査読論文にまとめる事ができた。(現在査読中) また惑星大気研究の専門家らとの定期的な会合を通じ、惑星大気組成と惑星形成環境の関係についても議論を進めることができた。
更に並行して、円盤のスノーライン位置や分子組成分布、元素組成比(C/O比等)分布の同定を目指した分子輝線観測の提案や実際の観測の実施(ALMA)、及び将来観測予測の議論を進め、 各波長の望遠鏡の将来サイエンス検討活動等(GREX-PLUS, ngVLA, LST等)にも一定の貢献をすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に引き続き、原始星段階から円盤散逸期までの物理構造と化学構造の時間進化を同時に扱うモデルの構築を進める。2022年度はダスト進化や電離率、乱流度等の円盤内空間分布に関する研究の最近の進展を踏まえ、これらの効果を詳細に取り入れた化学構造計算を行い、円盤内での現実的な物理進化を考慮した化学進化過程を明らかにする。計算結果を元に円盤中のスノーラインの位置とガス・ダスト中の元素組成比分布の進化過程についても更に詳細な議論を行う。また物理構造進化の影響を受けやすいH2O関連分子や有機分子に関して、ALMA等の観測結果と比較する事で、化学進化モデルの検証を行う。そして、各波長の将来計画望遠鏡(ngVLA, GREX-PLUS, LST等)に対しての観測予測の議論も進める。惑星大気組成に関しても、上記の円盤詳細化学構造計算の結果を初期条件(元素組成)として取り入れた議論・計算を進める。
最後に上記研究で得た系外惑星大気化学構造と円盤化学構造をそれぞれ理論・観測の両面から比較する事で、惑星形成領域に制限を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、当初予定していた日本国外出張の全てと国内出張の多く (研究打ち合わせ、学会発表などが目的) が中止・延期となり、学会・研究会等は一部の国内開催のものを除きオンラインでの実施となったため。 未使用で残った差額については、2022年度に物品費及び出張旅費(新型コロナ感染拡大状況は最大限に配慮した上で実施)等で使用予定である。
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