夏季の日中には太陽光を反射しつつも夜間には反射率を低減し熱放射(放射冷却)を促進する一方で,冬季には全く逆の特性を持たせるには,放射率が論理的に切り替わる機能性材料が必要となる.ある温度で金属-絶縁体相転移を行うサーモクロミック材料である二酸化バナジウム(VO2)と,電気化学反応(電位差)によって色を変化させるエレクトロクロミック特性を有する五酸化バナジウム(V2O5)とを組み合わせたナノスケールの複合材料(メタマテリアル)により,電位差の大小と温度の高低の組み合わせ4通りについて高放射(高吸収,低反射)と低放射(低吸収,高反射)とが条件により自律的に切り替わる,熱論理回路の実現が本研究課題の大目的である.本研究では,複雑な熱論理回路の考案に先駆けて,VO2の相転移の影響で単純に温度の大小によってのみ放射率の大小が入れ替わる熱スイッチに関する数値解析を行った.ここで太陽光と熱放射の波長及び大気の透過率を考慮すると,単純な熱スイッチであっても目的とする放射特性にある程度近づけられることが分かった.これを踏まえ,VO2を要素に含むことで高温環境下では太陽光の反射と放射冷却を促進することで温度上昇を抑制し,低温環境下ではそれらを共に抑制することで温度低下も抑制する機能性メタマテリアルを提案した.数値解析の結果から,今回提案した多層膜型のメタマテリアルの内部では,VO2が金属あるいは絶縁体,どちらの性質を取るかによって,高放射率の要因となる表面プラズモン/フォノンポラリトンの発生を制御できることが明らかとなった.研究成果について2021年度には2件の学会発表,1件の国際学術論文の掲載に至っている.今後,この熱スイッチの実証実験へ向けた取り組みとして,メタマテリアルを形作る微細構造の最適化を進めつつ,微細構造を実際に製作するための多層膜の成膜ノウハウの構築を進めていく予定である.
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