本研究は物体同士の接触を伴う流体現象の解明に向け、高次の基底関数を用いた境界適合格子による流体解析手法を信頼性、効率性、安全性の全てにおいて向上することを目的としている。本研究では、高次の基底関数の1つとしてNURBSで表現された境界適合格子を局所細分化するため、T-splineを用いる。NURBSは体積要素を表現する際に構造的な格子点配置を取ることから、一部を細分化するために解析領域全体の細分化が必要となる。T-splineは異なる基底関数を格子点列ごとに有して形状を表現することができるため、局所細分化を実現できる。本年度はT-splineを用いた3次元流体解析を人工心臓弁の解析に適用し、現実の問題に応用できることを示した。本解析は、人工心臓弁の性能試験を再現したもので、バルサルバ洞形状を有する直管の内部に人工心臓弁を配置しており、弁尖は実際と同じ厚みを持つため弁尖と、弁尖縁部分という異なるスケールを持つ複雑な形状である。さらには、流体構造連成解析に基づく複雑な動作を弁尖と管壁が有しており、3つの弁尖それぞれが異なる動作をもつ。人工心臓弁と管の周囲に境界適合格子を生成し、境界層部分を等倍、2分の1、4分の1、8分の1に局所細分化し、それぞれの格子で解析した。流入と流出の境界条件にはトラクションを与え、圧力駆動の系を再現した。このとき、安定して解くため2次のB-splineで表現された1要素を入口に設け、流入プロファイルをパラボラ状に規定した。解析結果から心臓弁が開く瞬間、閉じて接触する瞬間の流れの変化を捉え、弁尖縁に生じる小さいスケールの渦を捉えることに成功し、心臓弁周囲の複雑な渦構造を明らかにすることができた。境界部分の格子解像度が上げることで、捉えられる渦が増え、複雑な形状、動作に対して局所細分化が可能であり、有効であることを示すことができた。
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