マイクロ流路デバイスは,環境の詳細なコントロールや実験の自動化が可能であり,生物分野の研究に広く用いられている.しかし,より現実に近い実験を行うためには,大型のデバイスのサイズを大きくして細胞塊や組織を取り扱う必要がある.大型のデバイス作製に適した切削加工では,加工面が荒いために管路抵抗の増加や液残りが発生しやすく,流体を制御しづらいという課題があった. そこで,加工に伴う表面微小形状の変化による濡れ性の変化を調査し,追加工を施すことなく,切削加工の短所の影響を小さくすることを目的とし,切削条件を変えた場合の水接触角と算術平均粗さを調べた.その結果,以下のことがわかった.1)送り速度が大きくなると凹凸が大きくなり,水接触角が大きくなるが,送り速度がある値より大きくなると水接触角が小さくなっていく. 2)垂直方向の算術平均粗さは水平方向と比べて2~10倍ほどになり,測定方向以外の条件が同じ場合,垂直方向の凹凸が作用する,水平方向から測定した水接触角の方が垂直方向から測定した水接触角より大きくなる.3)算術平均粗さが大きくなると水接触角も大きくなるが,2.3 μm より算術平均粗さが大きくなると水接触角は少し小さくなる.4)いずれの条件でも無地の107.32°より水接触角が大きくなり,無地より親水性に変化したものはなかった.これらの結果から,切削条件を変化させることでマイクロ流路デバイスの濡れ性を変化させ,疎水表面と親水表面を作り分けることで,流体制御をすることができると考えられる.一方で,送り速度の変化と表面粗さの変化の関係性と,水接触角への影響には未知の点が残った.今回は表面粗さを算術平均で計測したが,今後最大高さでの表面粗さの計測や実際の表面形状自体を測定し,切削条件と加工表面,加工表面と水接触角の関係を調査する必要があると考えられる.
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