研究課題/領域番号 |
20K22407
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
秋月 祐樹 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 研究開発員 (00887573)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙機熱制御 / 軽量・小型 / 放射率可変 / 形状記憶合金 / ヒートパイプ / 放熱デバイス |
研究実績の概要 |
宇宙探査機は軌道周回時の日照・日陰に起因する短期的な熱環境変化に加え,太陽距離が大きく変化する惑星間航行時の長期的な熱環境変化に対応する必要がある.これに対応するデバイスとして,これまで搭載機器の温度や外部熱環境の変化に応じて表面の実効放射率を変化させるサーマルルーバやSRD等が多くの探査機に搭載されてきたが,質量が大きく構造が複雑である点や実効放射率のOn/Off比小さいといった点が課題であった.そこで本研究では小型・軽量かつ高On/Off比を兼ね備えた熱制御デバイスを高熱伝導形状記憶合金の適用によって実現することを目的とし,研究に取り組んでいる. 具体的には,本研究で提案している形状記憶合金(SMA)を用いた可逆放熱デバイス(STL)の可逆アクチュエータ要素試験およびBBMの製作・評価,SMAの高熱伝導化に向けたヒートパイプ型SMA(HPSMA)の製作までを2021年度で実施した. アクチュエータの要素試験では,曲げ応力が印可されている際のSMAの力学的特性を把握するために,円弧状のバイアスばねと組み合わせたアクチュエータの加熱冷却試験を実施し,複数条件にてSMA温度と展開角度の相関関係を取得した.2021年度は金属組成を変化させた変態温度が常温付近のSMAを調達し,性能取得を実施した.STL-BBM(放熱量50W級)の製作・評価では,熱真空チャンバにおいて熱真空試験を実施した.熱源の温度に依存してブレードが展開収納し,実効放射率が変化することを確認した.また,熱数学モデルとの比較評価によりヒータ熱量を削減可能であることを示した. SMAの高熱伝導化では,2020年度に検討したワイヤー放電加工による微細溝加工技術を用いて,実際に可逆放熱デバイスに組み込むことを考慮した形状に加工した棒状のSCSMAに微細溝加工(溝幅:0.15mm程度)を施し,BBM用のHPSMAを製作した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では小型・軽量・高効率な放射率可変デバイスの実現を目標としており,2021年度では①STL-BBMの製作・試験・評価と②HPSMA-BBMの製作までを実施した. ①STL-BBMの製作・試験・評価では,2021年度に新たに調達した常温付近に変態温度を有するSMAの単体試験を実施することで,SMA温度とアクチュエータの展開角度の関係性を取得し,取得した試験データを基にSTL-BBMを設計・製作した.熱真空試験の結果より,STL-BBMは低温時と高温時で実効放射率が最大0.62変化することを確認し,また熱数学モデルによる解析結果との比較により,低温時にヒータ電力を50%程度削減できる見込みがあることを示した.②HPSMA-BBMの製作では,2020年度に検討したワイヤー放電加工方法にて,デバイス搭載を見据えたHPSMAを製作した. STL-BBMの熱真空試験や学会における口頭発表,査読付き論文(国際学会のプロシーディング)の執筆等を実施し,当初の計画通りの進捗も見られる一方で,2021年度中に実施予定であった作動流体を封入したHPSMA-BBMの熱輸送性能確認試験および可逆アクチュエータとしての動作試験を実施出来ていないため,やや遅れていると判断した.本研究は2021年度が最終年度であったが,一年延長して2022年度も研究を継続予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度が最終年度であったが,「現在までの進捗状況」で示した通り,一部未完の内容があるため,一年延長して2022年度も研究を継続予定である.2022年度は,(a)HPSMAの熱・構造性能評価,(b)HPSMA搭載STLの熱真空試験を実施予定である.また,2022年度は国際学会での発表も控えており,査読付き論文も可能であれば執筆予定である. (a)HPSMAの熱・構造性能評価:昨年度製作したHPSMAに作動流体を封入し,熱輸送確認試験及びバイアスばねと組み合わせた熱・構造性能ひょうか試験を実施する.作動流体の封入方法に関しては,2020年度は追い出し法にて封入を実施しており,より確実にかつ正確に封入する方法を模索している段階である.熱・構造性能評価ではHPSMAとバイアスばねを組み合わせた高熱伝導アクチュエータとしての要素試験を実施し,変形量の温度依存性及び実効熱伝導率の同時取得を試みる. (b)HPSMA搭載STLの熱真空試験:製作したHPSMAを2021年度に製作したSTL-BBMに搭載し,熱真空試験を実施する.基本的な放熱性能を取得すると同時に,2021年度に実施した通常のSMAを用いたSTLの熱真空試験結果と比較することにより,HPSMAを搭載した際の熱的性能の優位性を実証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に開催予定の国際学会に参加予定であり,その参加費に本予算を充当するため,予算の一部を次年度に繰り越し使用予定である.
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