宇宙探査機は軌道周回時の日照・日陰に起因する短期的な熱環境変化に加え,太陽距離が大きく変化する惑星間航行時の長期的な熱環境変化に対応する必要がある.これに対応するデバイスとして,これまで搭載機器の温度や外部熱環境の変化に応じて表面の実効放射率を変化させるサーマルルーバやSRD等が多くの探査機に搭載されてきたが,質量が大きく構造が複雑である点や実効放射率のOn/Off比が小さいといった点が課題であった.そこで本研究では小型・軽量かつ高On/Off比を兼ね備えた熱制御デバイスを高熱伝導形状記憶合金の適用によって実現することを目的とし,研究に取り組んでいる. 具体的には,本研究で提案している形状記憶合金(SMA)を用いた可逆放熱デバイス(STL)BBMの熱真空試験及び課題抽出,新デバイスの検討を2022年度までに実施した. 2021年度末から2022年度初頭にかけて,STL-BBM(放熱量50W級)の熱真空試験を熱真空チャンバにて実施した.本試験より,熱源の温度に依存してブレードが展開収納し,実効放射率が変化することを確認した.また,熱数学モデルとの比較評価によりヒータ熱量を削減可能であることを示した. 2022年度後半は試験結果の整理・成果報告を主として実施し,国内・国際学会での口頭発表,査読付き論文の執筆・投稿を実施した.さらに,一連の試験結果からSTLの課題抽出を行い,①駆動源となるSMAの両端で温度差が生じることに起因して動作ON/OFF温度差が大きいこと,②ブレード部がSMAと板バネのみで支持されていることから機械環境耐性が低いと予想されること,③SMA力学特性の温度依存性を十分に取得できておらず設計手法が確立できていないことを課題として識別した.これらの課題を踏まえて,本研究で提案・実証したSTLを発展させた新しい断/放熱デバイスの提案及びその概念検討までを実施した.
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