研究課題/領域番号 |
20K22413
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重松 英 京都大学, 工学研究科, 助教 (00879265)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 微細加工 |
研究実績の概要 |
今年度は,昨年度における磁性体/SiC二層構造における交流スピン流生成検出法によるスピン流物性探索から進展させて,より定量的な評価に資する電気的スピン流注入法の実現に向けた技術開発を行った.このデバイスはスピンバルブと呼ばれるものであって,高ドープn型3C-SiC上に,微細な強磁性体電極を設置し一方の強磁性体/SiC界面においてスピン流を注入し,もう一方の強磁性体電極でSiCチャネルを伝搬したスピン流由来の電気化学ポテンシャルを電圧として検出するものである.このデバイスにおいては,微小チャネル部分を独立させて精密に局所的なポテンシャルを測る必要があるが,そのためにSiO2によるマスク構造を採用し,デバイス部分にコンタクト窓を設けることとした.この目的のもと,SiC上のSiO2のCF4による反応性イオンエッチングの加工条件を探索した.これにより,SiO2と3C-SiCの開削選択比が明らかになり,上述の窓加工が可能となった.強磁性体微細電極の設置に進み,電気的スピン流注入デバイスが完成し,低温における測定に進んだ.高いスピンコヒーレンスが期待できる4 K付近において複数回繰り返し測定を行った.現時点ではスピン流輸送を示唆する信号は得られなかったが,改善策として強磁性体/SiC界面における中間層の挿入などの改善策を追究している.また,4族半導体の比較対象としてダイヤモンドにも着目してデバイス作製を目指している.第1年度に取り組んでいた,高周波測定に基づく測定についても,その対象を「スピントルク強磁性共鳴法」にも広げて,技術開発に取り組み,SiCを用いたデバイス作製や測定に備えている.さらに,より効果的なスピン流デバイス設計に役立てるために,ナノスケール構造におけるスピン流分布を計算するためのシミュレーションを実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は今年度において,電気的スピン流注入デバイスを完成させてその動作を達成する目標であった.今年度のプロセス開発により,電気的スピン流注入デバイスの構成に不可欠な反応性イオンエッチングの加工条件が明らかとなり,初号となるデバイスの完成に漕ぎつけた.そのため,本研究計画はおおむね順調に進捗していると判断している.現状では期待した動作は観測されなかったが,今後プロセスの改善により達成されるものと期待している.
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今後の研究の推進方策 |
先述の通り,電気的スピン流注入デバイスの作製に不可欠なデバイス開発段階は完了している.今後は,SiC/強磁性間の界面の精密制御に取り組む.具体的には,格子整合した絶縁体の挿入を検討する.さらに,現在はSiC/強磁性体間の空乏層幅を小さくすることを念頭に置いて高いドーピング濃度を選択したが,今後は詳細な検討により効率的なスピン流注入を実現する条件を模索する. 以上が達成されると,SiCのスピン拡散長やその温度特性というスピントロニクス物性において重要なパラメータが同定できることとなる.これにより,SiやGaAsといった既存の半導体スピントロニクス材料との比較議論を行うことが期待できる. さらに,高周波におけるスピンダイナミクスを応用した測定手法を,より範囲を広めて模索する.第1年目において取り組んだ「交流スピン流生成検出法」による測定結果を踏まえ,スピン流伝搬特性に加えて,SiCのスピン流電流変換機能を多角的に検討できる技術的基盤を整備する.
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次年度使用額が生じた理由 |
SiC基板を使用した微細加工プロセスの開発に,計画より長い期間を要したため当初の研究計画年限を延長することとした. 延長された年限の1年間において,これまでに開発したSiCを用いた電気的スピン流注入デバイス作製にかかる微細加工技術を用いて,さらに界面におけるスピン流注入物性を考慮したデバイス設計を行う.これにより,電気的スピン流注入法によるn型SiCをチャネルとしたスピン流輸送を達成することを期待する.このために,半導体材料経費,さらにはその上部に構成する微細金属構造の材料となる高純度金属材料を調達する予定である.また,デバイス開発から測定段階へ移行するにつれて必要となる,測定系を整備・改良するための電気測定機器の調達も予定している.
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