近年,低炭素社会に向けて,非接触給電システムを適用した蓄電池電車の検討が進んでいる。その一方で,蓄電池電車は,駅間で急速充電(数100 kW級)が求められるため,従来の銅コイルを用いた非接触給電システムでは,銅コイルの発熱が課題となっている。そこで,申請者は,低損失化および大容量化が可能な高温超電導(HTS: High-Temperature Superconducting)コイルを用いた鉄道用非接触給電システムについて検討している。その一方で,前年度までに,kHz帯の交流通電時のHTSコイルは,交流損失の発熱により臨界電流値が低下し,熱的に不安定となる可能性があることがわかった。そのため,現状のHTSコイルを熱的に安定な状態で動作させるためには,HTSコイル内に発生する交流損失の低損失化が重要である。また,冷却能力が高く小型な冷却システムを実現させるためには,HTSコイルが受け取る電力の高エネルギー密度化が必要である。そこで,本年度は,HTS線材の細線化および並列化に着目し,HTSコイルの低損失化かつ高エネルギー密度化が可能なコイル構造について検討した。その結果,非接触給電システム用のHTSコイル構造は,コイル高さがHTS線材幅の2倍必要となるダブルパンケーキコイル構造に比べて,コイル高さがHTS線材幅と同様となるシングルパンケーキコイル構造が適していることがわかった。また,幅の狭い線材をコイル径方向に並列化することによって,HTSコイルの低損失化に繋がり,HTSコイルが受け取る電力の高エネルギー密度化が可能であることを明らかにした。
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