研究課題
宇宙用の論理集積回路には、耐放射線性と低消費電力化が求められる。この解の有力候補として、不揮発性メモリとして研究開発が進むSTT-MRAMがある。STT-MRAMでは磁気トンネル接合(MTJ)素子が情報の記憶を担い、磁化の方向で情報を記憶する。MTJ素子は強い放射線耐性を有することが報告されている一方、直径50nm以下まで微細化した素子においては放射線による磁化反転(ソフトエラー)が報告されている。しかしながら、この放射線誘起の磁化反転のメカニズムは現在でも明らかにされておらず、本研究はその解明を試みる。本研究では、多数の層から構成されるMTJ素子と比較して単純な構造を有し、また放射線の命中も容易である磁性ナノドットアレイ素子を用いる。ここで磁性ナノドットアレイ素子とは、金属材料の下地層(Hallバー)上に多数の磁性ナノドット(MTJ素子で情報を記憶する層と同じ材料)が形成された構造の素子でありHallバーを介して磁化の状態の読出(異常Hall効果)が可能な素子である。また加えて、ここで用いた金属下地層/磁性層という構造は、STT-MRAMの次世代版とされるSOT-MRAMと同じ構造でもあるため、SOT-MRAM構造の放射線影響評価とも位置付けることもできる。直径80nmの磁性ナノドットからなる素子を作製し、重粒子イオンの照射実験を実施した。その結果、磁性層への影響は見ることができなかったが、一方で放射線照射によって異常Hall抵抗のレベルがシフトすることが明らかになった。このシフトは、照射量とともに増加して飽和していることから、ドーズ効果の一種と考えることができるが、断面観察からは判別できなかった。影響の解明にはより詳細な実験が必要であるが、本研究はスピントロニクス素子の放射線影響評価に対してより原理的な実験素子を用いることを提案し、その実例を提供することができた。
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