研究課題
今年度は本研究の初手として,高エネルギ物質および高エネルギ物質系液体推進薬の爆轟特性を速度論に基づき算出した.高エネルギー物質として硝酸ヒドロキシアミンおよびアンモニウムジニトラミド,硝酸アンモニウムの3つを取り扱った.量子化学計算により追加化学種の熱力学データを導出し,これらを追加することで化学平衡計算ソフトNASA-CEAの改良を行った.当該ソフトウェアを用いて,高エネルギ物質および高エネルギ物質系液体推進薬の蒸発ガスや熱分解ガスのC-J速度を算出した.本計算結果を初期条件とし,詳細化学反応機構とZND modelを用い,高エネルギ物質および高エネルギ物質系液体推進薬の気相領域における一次元定常デトネーション波構造を計算した.詳細化学反応機構は,既往機構と不足が予測される素反応群の組み合わせにより構築した.その結果,従来の炭化水素/酸素系予混合気が1段階昇温プロファイルを示すのに対して,高エネルギー物質3種では数段階の昇温プロファイルを取ることがわかった.加えて, induction lengthを算出したところ,従来の炭化水素/酸素系予混合気に比べ,induction lengthが長くなることが予想された.これはデトネーションのセルサイズが大きいことを暗示している.すべての高エネルギー物質について,燃料を添加した高エネルギ物質系液体推進薬では理論混合比に近づくほど、induction lengthは短くなる傾向が見られた.高エネルギ物質と高エネルギ物質系液体推進薬でinduction lengthの傾向の違いについては,Rate of production解析から進行する素反応の変化により説明できた.以上の結果から,高エネルギ物質ではその熱分解ガスの気相爆轟特性は比較的低く,燃料を含む高エネルギ物質系液体推進薬になると爆轟の可能性が高まることが予測された.
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた計算的アプローチのセットアップおよび実計算を滞りなく実施できた.しかしながら,実験系のセットアップについては手配までで止まっており,構築には至っていない.
主に次の2点について取り組む:(1)初期パラメータが爆轟特性に与える影響性の計算的評価,(2)爆轟特性の実験検証および爆轟条件の特定(1)初期圧力や組成(燃料成分の有無,分解・蒸発ガス組成),初期温度等を変数として,上述した高エネルギ物質および高エネルギ物質系液体推進薬の気相爆轟特性がどのように変化するかその傾向を計算的に明らかにする.(2)密閉されたガラス製円筒管に,ヒータ等を用いてGPs-HEMsおよびGPsの蒸発・熱分解ガスを形成し,プリデトネーション管で衝撃波を印加する.計算的検証同様,初期圧力や組成を実験変数として取り扱う.実験では,ハイスピードカメラを用いてガラス管側部を観察し,衝撃波面の進行の様子を明らかにする.熱電対および二色温度法によるハイスピードカメラ画像の解析から,実験時の温度分布を取得する.取得された衝撃波の進行速度・温度分布と初年度の計算結果を比較することで,GPs-HEMsおよびGPsの気相領域の爆轟特性に影響する要素を体系的に整理し,爆轟条件を特定・導出する.
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10.1002/prep.201900352