研究課題/領域番号 |
20K22436
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
芹川 由布子 松江工業高等専門学校, 環境・建設工学科, 助教 (50871349)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 液状化 / 健康障害 / 地震 |
研究実績の概要 |
2016年熊本地震および2018年北海道胆振東部地震の液状化被害発生地域において,家屋の傾斜被害調査とその家に住んでいる住人の健康障害に関するアンケート調査を行った.現地調査の際に得られた詳細な計測結果(外壁・内壁・床傾斜量)と健康障害に関する回答をもとに,家屋傾斜量と健康障害の関係を分析し,どの程度の傾斜量で健康障害が発症しているか,さらに,それらの健康障害はどのような症状であったかを明らかにした.得られた結果および考察を以下に示す. 1. 液状化により傾斜した家屋に住み続けている場合,頭痛・めまい・吐き気・食欲不振などの症状があらわれ,健康障害に大きく影響しているのは家屋内部,特に床の傾斜量であった. 2. 現在は0.6゜(10/1000)が健康障害発症の境界とされているが,外壁傾斜量0.6゜以下の場合でも健康障害は生じていた.その中でも,床傾斜量が0.40゜(7/1000)を超える場合に発症率が高くなっており,特に,女性の場合は傾斜が小さい場合でも症状が報告されていた. 健康障害で挙げられる傾斜空間でのめまいは運動系・視覚系のくいちがいによるものと考えられている.運動要素と視覚要素の分離が原因とされていることから,これまでに行ってきた工学的な調査だけなく,身体運動心理学等の観点からも室内傾斜量と健康障害の関係を分析する.この成果をもとに健康障害を考慮した指標を要求性能に設けることで,人間(住人) に寄り添った性能設計が実現すると考えられる.今後は,被害を抑える減災という考え方に着目し,「被害をどの程度にまで抑える必要があるか」という基準を住人の健康障害発症事例をもとに定め,液状化対策の性能設計に導入することを提案する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査の際に得られた詳細な計測結果(外壁・内壁・床傾斜量)と健康障害に関する回答をもとに,家屋傾斜量と健康障害の関係を分析し,どの程度の傾斜量で健康障害が発症しているか,さらに,それらの健康障害はどのような症状であったかを明らかにした. そのような傾斜が身体に及ぼす影響を明らかにするため,小型無線多機能センサ(TSND151)を用いた予備実験を行った.まずは傾斜空間内での姿勢および身体の動きを計測するための環境を整えた. データ整理と並行し,予備実験を行えたためおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
健康障害で挙げられる傾斜空間でのめまいは運動系・視覚系のくいちがいによるものと考えられている.運動要素と視覚要素の分離が原因とされていることから,工学の視点だけでなく,身体運動心理学等の観点からも室内傾斜量と健康障害の関係を分析する. 方法としては,小型無線多機能センサ(TSND151)を用いた実験を行うことを予定している.傾斜空間内での姿勢および身体の動きを計測し,通常での動きと比較する.様々な状況での計測を行い,どのような傾斜が健康障害の要因となっているかを明らかにしていく.その要因となっている傾斜に着目し,「被害をどの程度にまで抑える必要があるか」という基準を住人の健康障害発症事例をもとに定め,液状化対策の性能設計に導入することを提案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた現地調査(県外との往来)が制限されていた状況であり、調査内容を変更したために次年度使用額が生じた. この次年度使用額については、傾斜が健康障害に及ぼす影響に関する実験設備(小型無線多機能センサ等)および調査予定であった地域へのアンケート送付代として使用することを計画している.
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