研究課題/領域番号 |
20K22442
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮田 翔平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20885595)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 空調システム / VAVシステム / シミュレーション / 熱源システム / デマンドレスポンス / VWVシステム / AHU / 統合システムシミュレーション |
研究実績の概要 |
空調システム・熱源システム・建物躯体を同時に計算可能な統合システムシミュレーションの開発を継続的に行い、デマンドレスポンスや制御ロジックの詳細な検討を行った。シミュレーション開発の観点では、VAV(Variable Air Volume)システムにおけるダクト空気回路網の演算を可能にした。また、制御ロジックを可能な限り忠実に再現するために、現実の制御ロジックの調査を行い、これに基づきシミュレーションを構築した。 デマンドレスポンスの検討に関しては、熱源機器停止、設定温度緩和、送水温度調整、熱容量利用、最大風量制限、蓄熱槽運転をシミュレーションにより比較した。特にこれらは機器の制御と室温への影響に時間遅れがあるため、機器から建物躯体まで同時に解くことでその効果を定量化することができた。 制御ロジックの検討に関しては、VAV・VWV(Variable Water Volume)・CO2 濃度制御による省エネ効果の定量化を行い、制御パラメータの変更や内部負荷の偏在による消費電力量・室温の制御性への影響についての検討を加えた。 具体的に検討対象とした制御パラメータは、要求風量制御演算式の積分値、比例ゲイン、最小・最大風量、給気温度制御の設定時間間隔、設定補正値、設定範囲、ダンパ開度制御の比例ゲイン、制御時間間隔、ファン回転数制御の静圧適正範囲、補正値、排気ファン比例ゲイン、ポンプ比例ゲイン、バイパス弁比例ゲイン、CO2濃度設定値である。これらパラメータは制御挙動や消費電力に影響を及ぼすものの、従来のエネルギー消費量を概算するシミュレーションでは考慮することができなかった。本研究では、これらを含め詳細なモデル化を行っているため、制御手法の評価をより現実に即して可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的化したオフィスビルと、実在する実験棟を対象にシミュレーションを構築した。オフィスビルのモデルはデマンドレスポンスの効果を明らかにすることを目的として構築され、実験棟のモデルは一般的な制御ロジックを詳細に検討することを目的として構築された。本研究の最終的な目的は本シミュレーションを活用し、詳細な制御パラメータまで考慮した最適制御手法を提案することである。そのためには空調システム、建物躯体のモデルが様々な運転条件下で適切に動作することが必要である。この意味で、まずデマンドレスポンスと制御パラメータの影響の定量化を行った。以下にそれぞれの例を記述する。 デマンドレスポンスについては、熱源機器の送水温度上昇が挙げられる。ある特定の時間帯の電力消費を抑制することがデマンドレスポンスの目的であるが、その際に可能な限り室内環境への影響を抑えるべきである。一般に、熱源機器の送水温度を上げることで、熱源機器の消費電力が小さくなるが、室内の環境を維持するためには風量を増加させる必要が生じるため、熱源機器とファンの消費電力はトレードオフの関係にある。そこで、開発した統合システムシミュレーションにおいて送水温度を上昇させた結果、室内環境は維持できたものの熱源機器の効率向上がもたらす電力デマンド削減効果が搬送動力の増加より小さい結果が得られた。 制御パラメータの影響については、給気温度設定間隔の検討が挙げられる。給気温度は基本的に5分に1度再設定される。従来このようなパラメータは制御メーカーのノウハウとされシミュレーションによる検討が十分ではなかった。今回、給気温度設定間隔を1分間にした結果、急激に給気温度設定値が変化したものの冷温水ポンプとバイパス弁開度の制御に切り替えなどの冷温水流量の制御が追い付かず、給気温度が給気温度設定値となるよう制御されなくなることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として、開発した統合システムシミュレーションを用いた最適制御の検討が挙げられる。 近年、最適制御手法として注目されるモデル予測制御(MPC)は、制御ステップごとに最適値を探索するため、高速な計算が求められる。しかし、プログラムの開発にあたり水や空気の配管・ダクト回路網が複雑になると計算時間を要することが分かってきたため、最適制御に本シミュレーションを適用する際には何らかの工夫が必要になると考えられる。この課題は、MPC real time implementationと呼ばれ、実装する際に重要視される側面であるため、文献調査や計算高速化の工夫、制約条件の検討などを行う予定である。 なお、最適化の検討対象は実験棟のシステムをベースとするが、実験棟システムは空気側のダクト回路網が一般的なVAVシステムと比べて複雑であるため、単純化したシステムでまず検討を行う想定である。単純化したシステムで制御性能・エネルギー性能に影響を及ぼすパラメータの最適化を行い、その効果を示したうえで複雑なシステムのreal time implementationの検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
もともと想定していた旅費が新型コロナウイルスの影響で生じなかったため、次年度使用額が生じた。その一方で、開発しているシミュレーションの計算負荷が想定よりも大きく、計算機が当初の想定よりも必要になることが見込まれるため、計算機の購入に充てる予定である。また、計算機に加え、クラウド上の計算資源の購入にも充てる可能性がある。
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