本研究は極端気象によって市街地に発生する強風について、現象の特性に基づく不確実性の定性的・定量的知見の取得、建物側応答挙動に基づいた被災判定モデルの高度化を目的に行なった。気象モデル・乱流再生成手法により台風・竜巻の気象擾乱構造を再現した流れ場のアンサンブルデータを作成し、都市空間のラージ・エディ・シミュレーションに用いてアンサンブル解析を実施した。また直交格子系流体解析コードに多質点系構造モデルを実装し、実街区等にも適用可能な大自由度連成応答解析を構築した。 今年度は、2019年台風19号時の東京都心の強風アンサンブル解析を継続して実施した。昨年度特に顕著な強風がメソ気象モデル解析で予測された5メンバーのフィージビリティスタディを行なったが、前述の顕著事象ケースだけでなく、より一般的な強風特性が期待されるランダム抽出ケース、実現象により近いことが期待される経路再現性の高いケースを各10メンバー解析し、抽出ケース間の強風特性の比較、また顕著事象ケースのメンバー間に生じた最大瞬間風速のばらつきを分析した。 気象擾乱構造に基づく強風特性に関しては、ケース間で風速鉛直プロファイルの差異が見られ、顕著事象ケースと実経路再現ケースでは境界層のロール渦構造により高度500m付近で極大ピークの形成が見られた。前者で特にピークが大きく、鉛直シアが大きい一方、後者はシアがやや小さくピークの影響が上下のより広い高度に及ぶことが確認された。ランダム抽出のケースでは高度と共に風速が上昇する概形をとるメンバーの割合が増加した。 最大瞬間風速の不確実性については、中高層建物の屋根高さに相当する地上25m から50m付近でばらつきが特に大きく、10メンバーの中位値に対して、最大値が25%以上上昇した地点が市街地の広範囲で確認された。40%以上の上昇も一部では見られ顕著な風荷重の局所的な発生が推察された。
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