研究課題/領域番号 |
20K22451
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
鶴岡 典慶 京都女子大学, 家政学部, 教授 (80883628)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 近世社寺建築 / 近世仏堂 / 建築技法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近世寺院仏堂建築の立面構成を中心に構造技法を明らかにすることである。近世は、社寺等の建築環境において大きな変革期で、近世初頭の城郭普請により一大建設ラッシュとなり多くの大工が育成された後、権力者による社寺復興が展開され、これまで秘伝的に継承されてきた宮大工の領域に多くの大工が参画することとなる。初期には正統的な伝統技法を基本としながら金物を多用することによる先進的な短期普請工法が融合されて短期間で大規模社寺造営が可能となるなど新たな技法が生まれた。その後、幕府直轄の公儀普請が収束すると、大工は分化して個別活動が主流となり入札による請負制度の普及など建築生産上の変化が現れ、普請事業獲得の必要性から建築資材の節減による経済的な効率化や外観上の意匠的充実に重点をおくこととなる。 建築の木割等の構造に関するデータや資料を取りまとめて比較検討し技法の多面的特色を見出すことにより近世寺院仏堂の構造技法を明らかにすることが本研究の内容で、本年度は文献資料収集を中心に実施した。近世仏堂建築のうちこれまでに保存修理工事が実施され修理工事報告書が刊行されたものから、柱径、柱間、床高、内法高、桁高、天井形式及び天井高、地垂木及び飛檐垂木の断面・軒の出・勾配、小屋梁架構、小屋束の割付、破風の取付位置、屋根勾配及び屋弛み等各部の詳細な寸法を求めた。 調査対象は、青森県(4棟)、岩手県(1棟)、埼玉県(1棟)、栃木県(2棟)、千葉県(2棟)、東京都(1棟)、石川県(1棟)、山梨県(2棟)、長野県(1棟)、愛知県(1棟)、三重県(3棟)、山口県(2棟)、福岡県(1棟)、大分県(1棟)、熊本県(1棟)及び京都府(5棟)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究に必要な資機材の調達はほぼ完了し、本年度は、資料収集として修理工事報告書を中心とした文献調査を実施した。修理報告書から入手できるデータについては、対象とする建造物の約80%は完了した。しかし当初は報告書から入手できると考えていたデータについて未記載のものも見受けられるなど、確認が困難であるデータがあることも判明してきた。したがって修理担当者への聞き取り等の調査も追加して実施を検討する必要が生じた。また、当初は文献資料収集と並行して一部現地調査を進める計画であったが、新型コロナウィルス感染症の影響等により京都府以外へはほとんど実施できなかったため、研究進捗としては、やや遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
基礎資料を元に、立面構成の木割(比例)に焦点を置きながら、調査対象の各建築について、時代、地域、建築主の状況、大工等普請に関わる諸史料と照合しながら比較検討し、建築技法の多様性や類似性、或いは系統的関連性等の特徴を見出していく。 現地調査に当たっては、修理報告書の基礎資料を整理し、文献からでは不足するデータについて可能な範囲で必要な実測作業や記録撮影を行う。調査対象は東北の青森県から九州の熊本県までの全国に分布することから、事前準備を周到に行い、効率的な実施を目指すものとする。また近畿地区は、定期的な調査日時を設定するなど重点的に調査を行うこととし、研究に支障が生じないよう留意する。一方で新型コロナ感染症対策は十分に行い法的規制等を遵守し行動する。 なお、現地調査が十分に行えない状況が発生した場合は、一部比較検討範囲の縮小も検討しながら、研究成果としては完了するように進めるものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウィルス感染症の拡大等により建造物所在地への現地調査が困難な時期が多く、予定していた調査補助員との日程調整がうまくいかなかったこともあり、調査旅費及び現地調査補助要員の人件費が未出となった。 次年度は、引き続き新型コロナウィルス感染症の影響は憂慮されるが、研究に必要な現地調査が行えるよう事前準備を周到にして本年度未執行分と合わせて経費使用計画を立てて進めることとする。
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