令和5年度は、コロナ感染症の影響により延期となっていた実地調査として、愛知県及び香川県の近世寺院本堂が残る4か所の現地へ赴き、写真撮影及び記録調書作成を行った。またこれまで調査を行ってきた写真資料について、軸部・軒の出及び化粧軒仕様・屋根形状に分類し、視覚的側面からの立面比例に関する考察の資料整理を行うとともに、各種分析の最終的結果のとりまとめを行った。 本研究全体としては、令和2年度・3年度(コロナ感染症の影響により2か年繰り越しにより令和5年度)までの期間で、わが国の近世寺院建築について技法的特徴を明らかにすることを目的とし、まず全国の近世寺院本堂建築の内、国あるいは地方公共団体によって指定等になった建物で、これまでに修理や詳細調査が実施され報告書等により詳細寸法が把握できるものを中心に、報告書及び現地調査により全国22都府県にわたって資料収集を行った。その上で建築の平面形式により3間堂・5間堂・7間堂以上の3種類に区分して、柱・地垂木・飛檐垂木、木負、茅負等の各部材や、柱間、軒高、棟高、屋根及び軒勾配等の寸法詳細を実測や修理工事報告書から抽出するとともに、社寺建築の木割考察の上で重要な垂木支割も調査し、柱径/柱間、軒の出/軒高、軒の出/柱間等、建築のプロポーションに関わる比率を算出した。そしてそれぞれの部位ごとに歴史木割書である「匠明」記載の基準値も併せて比較し、さらに地域性や時代性の観点も加えて建築の立面的な構造形式を分析することにより、近世寺院本堂建築の技法的特徴の傾向を明らかにした。
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