本年度は,スピネル型酸化物LiMn2O4を用いた光照射下の充放電挙動の調査およびその安定性向上を目指した結晶構造設計を行った.具体的には,まず負極材料の代わりに電子アクセプタを用いたハーフセルのセットアップにおいて,LiMn2O4と光触媒を用いた電極に白色光を照射した際の電位変化をモニターした.その結果,電子アクセプタの種類に応じてその電位変化の挙動は大きく異なり,その違いを考察することで光電気化学挙動の基礎的理解を得た.以上の結果を考慮して選定した電極・電解液系において,光照射によりLiMn2O4の充電反応(LiイオンのLiMn2O4からの脱離反応)を実証することに成功した.X線回折(XRD)法,X線吸収微細構造(XAFS)解析,誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析等により充電挙動の詳細を調査することで,結晶構造・電子構造・組成の観点から充電挙動の詳細を明らかにした.さらに,LiMn2O4では充電時に構造が不安定化する問題点があるため,組成を部分的に変えて構造を安定化させた材料についても合わせて評価することで,LiMn2O4と比較して安定した光充電を実現する材料を見出す事に成功した. 研究期間全体を通じて,光電気化学測定の環境整備,使用する電極・電解液系の選定,光充電特性の評価法などの確立が完了し,研究活動をスタートする上で重要な基盤を構築することができた.さらに,当初の目的であったスピネル型酸化物の光駆動の充電反応の実証およびその高性能化に向けた設計指針構築まで研究は進展しており,今後の研究のさらなる発展に向けて重要な成果が得られたと言える.
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