次世代蓄電池の実現は,既存の枠にとらわれない新たなアプローチが必要である.本研究は2種類のキャリアを併用するデュアルカチオン蓄電池の実用化に向け,理論計算と実験の両面から,正極材料候補を熱力学・速度論の観点から探索し,高性能を有する蓄電池材料の設計指針を確立することを目的にしている. 最終年度の本年度では,トンネル構造を有するalpha-MnO2に着眼し,Li,Mgの単味電解液とLi-Mgデュアルカチオン電解液における放電挙動を実験的に調べた,その結果,Li-Mgデュアルカチオン系では最も高い放電容量を得られ,LiとMgカチオンの共同挿入を確認した.Liとの併用により,Mgの固体内拡散が促進され,本研究グループが過去にMo6S8正極で解明した現象とよく一致しており,協奏的相互作用の一般性を示した.さらに,昨年度に続き,多種元素を混合した酸化物正極の設計を考案した.特にLi単体キャリア系において,配置エントロピーの変化が相安定性に与える影響を調べた. デュアルカチオン電池の構築に向けて,正極反応の調査から独立して,金属負極反応において,カチオン元素間の相互作用が電析形態形成に与える影響を調べた.LiやNaなどのアルカリ金属塩を含めた電解液に多価カチオン塩を添加することにより,アルカリ金属カチオンの溶媒和状態が顕著に変化することを発見した.単味電解液ではアルカリ金属カチオンは主に溶媒分子と比較に弱く結合するが,デュアルカチオン電解液では,カチオン間の強いクーロン作用により,アルカリ金属カチオンよりアニオンと接近し,中性的な錯体が形成されることを解明した.このような溶媒和変化により,アルカリ金属の析出反応における律速過程が影響され,平坦な電析形態を形成しやすい反応律速段階に維持することが示唆された.
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