研究課題/領域番号 |
20K22465
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金子 真大 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (60881191)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | レドックスポリマー / リン脂質ポリマー / がん治療 / 電子移動 / ボロン酸 |
研究実績の概要 |
近年、がん細胞の細胞内レドックス状態の変化に対する脆弱性に着目した抗がん剤開発が注目されている。我々は、細胞膜透過性の電子輸送ポリマーにより細胞内のレドックス状態を制御する技術を独自に開発してきた。これまでに、フェロセンユニットを有する電子輸送ポリマーpMFcを介した細胞内からの電子引き抜きにより、ヒト乳腺がん細胞株に細胞死が誘導されることを見出している。本研究ではこの技術を発展させ、in vivo腫瘍治療電子輸送ポリマーを創製することで、新たながん治療法の創出を目指す。 まず、マウス結腸がん細胞株CT26細胞をモデルとして、還元体および酸化体のpMFcが細胞生存率に与える影響を評価した。還元体pMFcは細胞生存率にほとんど影響を与えなかった一方、酸化体pMFcでは添加量の増加とともに細胞生存率が低下していく傾向が認められた。また、アポトーシスアッセイの結果から、pMFcによる電子引き抜きはCT26細胞にアポトーシスを誘導することが示された。さらに、ダメージ関連分子パターン(DAMPs)の解析を行ったところ、酸化体pMFcと培養した細胞でのみ、細胞表面のカルレティキュリンの発現量および細胞外へのATP放出量が増加する傾向が見られた。以上の結果は、酸化体pMFcがCT26細胞に免疫原性細胞死を誘導したことを示唆している。 電子輸送ポリマーによる治療効果を向上させるためにはポリマーを腫瘍部位に長時間留まらせることが重要だと考えられる。本研究では、多くのがん細胞表面で過剰に発現しているシアル酸と結合能を有するボロン酸に注目し、フェロセンユニットとボロン酸ユニットを有するポリマーpMBVFcを合成した。酸化体および還元体pMBVFcがCT26細胞生存率に与える影響を評価したところ、pMFcと同様に、酸化体pMBVFcのみが細胞生存率を低下させることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルがん細胞として用いたCT26細胞に対して、pMFcを用いた細胞内酸化により細胞死の誘導が可能であることを確認した。さらに、pMFcによって免疫原生細胞死が誘導されることが示唆されたことから、電子輸送ポリマーを用いたがん治療法は、腫瘍免疫の賦活効果を有することが期待された。また、がん細胞結合性のボロン酸ユニットを有した電子輸送ポリマーpMBVFcを合成し、pMFcと同様にがん細胞死誘導機能を有していることを確認した。以上から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
がんモデルマウスに対して電子輸送ポリマーpMFcおよびpMBVFcを注射し、電子輸送ポリマーによるin vivo腫瘍治療効果を検討する。ポリマーの酸化還元状態が治療効果に与える影響を検討するとともに、腫瘍へのポリマーの取り込み特性を分析し、ボロン酸ユニットの導入によりポリマーの腫瘍部位への滞留性が向上するかを評価する。ポリマーによる治療効果が見られた場合は、治療後のマウスに抗腫瘍免疫が誘導されているかも検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していたポリマーの合成に必要な備品および試薬の購入が完了しており、残存額を次年度で行う動物実験用のマウス購入費に充てるめ。
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