本研究では、細胞膜透過性を有した電子輸送ポリマーによりがん細胞内の酸化還元状態を乱す技術を利用し、新たながん治療法の構築を目指した。 フェロセンユニットを有した電子輸送ポリマーpMFcを用いて、電子を受け取ることのできない還元体および、電子を受け取ることのできる酸化体pMFcがマウス結腸がんCT26細胞に与える影響を検討した。還元体pMFcは細胞生存率にほとんど影響を与えなかった一方、酸化体pMFcは酸化ストレスを介してCT26細胞にアポトーシスを誘導し、細胞生存率を低下させることが明らかになった。さらに、酸化体pMFcを添加した系では、がん細胞に対する免疫を賦活化する分子群であるダメージ関連分子パターンの放出が確認された。In vivoにおける免疫誘導効果を検討したところ、CT26細胞を注射したマウスでは、CT26腫瘍の形成が阻害される傾向が認められた。この結果は、酸化体pMFcがCT26細胞に免疫を誘導する形で細胞死を誘導し、抗腫瘍免疫を賦活化させたことを示している。 マウスCT26腫瘍に対する直接注射によりpMFcの治療効果を検討したところ、酸化体pMFcを注射した群でのみ、腫瘍の成長が抑制される個体が見られた。さらに、ポリマーの腫瘍への滞在性を向上させるため、ボロン酸ユニットを導入した電子輸送ポリマーpMBVFcを合成し治療効果を検討した。その結果、酸化体pMFcと比較して治療効果の向上は認められなかった。これは、単位ポリマー量あたりに殺傷できるがん細胞数が限られていたためだと考えられる。したがって、電子輸送ポリマーによるがん治療効果の向上には、まず単位ポリマー量あたりに殺傷できるがん細胞数を向上させることが重要だと考えられる。 本研究は、酸化還元活性を有する電子輸送ポリマーががん治療に有効であることを示すものであり、新規がん治療法創出への貢献が期待される。
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