ラスマルテンサイト鋼におけるき裂進展機構を解明するため、き裂先端近傍の転位運動を透過型電子顕微鏡内で直接観察し、組織要素レベルでのき裂進展挙動との対応付けを行った。き裂先端およびき裂前方での転位挙動のその場観察の結果、き裂先端からの転位放出よりも先に、き裂前方の既存転位の活動が起こった。さらに、き裂先端からの転位放出が起こるまで荷重を負荷すると、既存転位の活動は顕著になり、既存転位同士の絡まり合いが起こった。これらのことは、ラスマルテンサイトの疲労き裂進展において重要な役割を担う、転位セル構造は、き裂前方の既存転位の活動および既存転位同士の絡まり合いによって形成されることを示唆している。
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