研究実績の概要 |
本研究はチタン合金への新たな結晶構造の選択肢として面心立方構造(FCC)の利用の可能性についての第一原理計算法を用いた研究である。2020年度はチタン(Ti)にニオブ(Nb)やケイ素(Si)が加わるとFCC構造が出現するという実験報告をもとに①純Ti及び②Ti-Nb系と③Ti-Si系を対象として、FCCや長周期積層構造(FCC構造とHCP構造が周期的に積層した構造)の遷移状態解析を行った。結晶構造モデルはマグネシウムの研究で用いたモデルを用いている。Ti-Si系の計算結果からはSiが加わることによりHCP構造よりも長周期積層構造のほうが安定化することがわかった。これは計算上、TiのHCP構造にSiの濃化部分ができると、自発的に長周期積層構造に相転移することを示す結果である。これを受けて、2021年度は計画通りSi, Nb以外の元素についての調査を行った。これまでの知見から長周期積層構造を形成させる元素の条件として、HCP構造よりも長周期積層構造のエネルギーが低いこと、安定な遷移経路を示すことが必要と考えている。そこでまずは、周期表の4周期Ca~Geと5周期の元素Sr~Snを置換元素とした場合のHCP構造と長周期積層構造のエネルギー差dEを計算した。その結果、V, Cr, Cu, Ge, Y, Mo, Pd, Ag, Snの場合にHCP構造よりも長周期積層構造のエネルギーが低いという結果を得た。それらの元素をNbやSiの場合と同様に遷移状態解析を行うとGe, Cu, Pd, Agが安定な経路でHCP構造から長周期積層構造へ遷移することが分かった。その中でも安定な遷移経路を示すSi, GeはdEも他の元素の場合より大きく特に安定であった。TiにおけるFCC相の利用へ向けた添加元素としてSiに加え、Ge, Cu, Pd, Agがそのポテンシャルを持つ元素であることがわかった。
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