研究課題/領域番号 |
20K22472
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
三溝 朱音 東京理科大学, 基礎工学部材料工学科, 助教 (00876047)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | p型酸化物半導体 / Sn2+酸化物 / 構造解析 / 物質合成 |
研究実績の概要 |
人体に有害な紫外光を用いて発電する透明太陽電池など、革新的なデバイスの創生に向けて、新規p型酸化物材料の開発が必要である。近年、軌道半径の大きなSn 5s軌道が正孔の伝導経路となるSn2+酸化物が新規p型酸化物として着目されている。これまでの研究では、適切な酸化雰囲気で熱処理を行うことでp型Sn2M2O7(M=Nb, Ta)の作製に成功した。また、p型伝導発現の要は正孔濃度を高めることであるが、p型Sn2M2O7中には電子生成源となる酸素欠陥が多量に存在し、正味の正孔濃度を減少させていることがわかった。そこで本研究では、Mサイトの組成と酸素欠陥生成量の相関性に着目した。先行研究における、有効核電荷Zeffの大きなM=Taのときに酸素欠陥生成量が少ないという知見を受け、Zeffのより大きなSb5+,Bi5+をMサイトに高濃度に固溶させて新たな複合酸化物を合成し、このときの欠陥生成量の傾向を調べ、酸素欠陥生成による電荷補償を抑制するための材料設計指針を得る事を本研究の目的とする。当該年度では研究の第一段階として、新規組成のパイロクロアの合成を試みた。その結果、水熱合成法が新規組成のパイロクロア合成に対し有効である可能性が示された。また、放射光を用いた拡張X線吸収端構造解析(EXAFS)スペクトルを解析して酸素欠陥量の半定量的な評価を行い、Sn2M2O7では特にSn周りに酸素欠陥が集中していることを示した。これらの結果をまとめ、論文(現在投稿中)、および学会で発表した。また、先行研究を含めた一連の研究の成果をまとめ、本の執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度では、M=Sb, Biとは異なる組成ではあるが、水熱合成法を用いてほぼ単相のSn2+系パイロクロアの作製に成功した。コロナ禍で大学への登校を制限されていたこともあり、当初予定していたSn2Sb2O7と Sn2Bi2O7の合成には至らなかったが、水熱合成法によるパイロクロア合成の有効性は示されたことから、今後は目的物質作製のための適切な作成条件を模索していく。また、同時にゾルゲル法、ペチー二法などの化学的手法を用いた合成にも既に着手している。 一方、酸素欠陥の評価に関しては、先行研究で既に合成済みであるSn2Nb2O7に関して、拡張X線吸収端構造解析(EXAFS)およびXRDのRietveld解析、その他組成分析など様々な測定手法を駆使して酸素欠陥量の半定量的な評価をおこなった。その結果、Sn2M2O7では、Sn周りに多量に酸素欠陥が生成していることを明らかとし、欠陥量はSn2Nb2O7におけるSn周りの特徴的な結晶構造と関連している可能性を示した。この結果は論文としてまとめ、現在投稿中である。また学会でも発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
Sn2Sb2O7と Sn2Bi2O7の合成を目指し、水熱合成法における適切な作成条件を探索する。また、化学的手法(ゾルゲル法、ペチー二法)の作製も同時に行い、目的物質合成を目指す。もし合成に失敗した場合は、固相反応法で容易に作製可能なSn2M2O7(M=Nb orTa) をテンプレートとし、Sb5+,Bi5+を固溶させたSn2M2-xSbxO7, Sn2M2-xBixO7を作成し、xの値を変化させた複数のサンプルを用意する。 作製した試料は、拡張X線吸収端構造解析(EXAFS)およびXRDのRietveld解析、その他組成分析など様々な測定手法を駆使して酸素欠陥量の半定量的な評価を行い、酸素欠陥量が組成によりどのように変化するのかを明らかにする予定である。
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